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「――できましたよ」
プリンターが吐き出した請求書を封筒におさめて差し出した。
「だから機嫌が悪いのか……埋め合わせに甘い物でも奢ってやる」
受け取った諒は起き上がって当然のように顎をしゃくる。
差し出した請求書の宛名を思い浮かべて、埋め合わせだけではない理由を察して立ちあがった。
※
諒と一緒に歩くのは嫌いじゃない。
(これが仕事でなければもっと良かった)
サキを誘ったのはデートでも社交辞令でも福利厚生でもない。仕事の一環。女性依頼者と二人で会うのは誤解を招きかねないという配慮から。
(そういうところは気が利くのに……)
普段なら近所の買い物客でにぎわう商店街は春の陽気に誘われた家族連れの姿。たった今、デートに繰り出す楽しそうな二人とすれ違ったばかり。
なぜか、気になった。
諒と並んで歩く姿は特別な関係に見えるだろうか――否定して頭を振った。
(こんなボサボサの不愛想より、もっと優しいイケメンがいいっ)
「ミケはどうしてあたらしいオフクロさんを嫌うんだ?」
肩を並べたとたん、いきなり嫌な質問が飛んで来た。
「……慈英さんになにか言われましたね」
目を細めたサキのつぶやきは綺麗に無視された。
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