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特にイベントもない週末でランチにも早い時刻の店内は空席が目立つ。
「あ、綾乃さんですよ」
サキの小声に諒はなぜか後ろを振り返った。
(そっちじゃないって……!)
間違いを修正するように奥まった席に座る綾乃を指し示すと途端に嫌な顔になる。当然のように諒に諫めるような視線を向けて確認する。
本日のファッションは白いカーディガンに小花を散らした若草色のスカート。長い黒髪を背中に流して手元の本に目を落としている姿はモデルのよう。
「――――?」
顔をあげた綾乃に感じた、軽い違和感。
「諒さん、こっち、こっち!」
(違う……?)
笑顔で機嫌よく諒を呼ぶ声に目を丸くした。
背格好はよく似ているが違うが――綾乃ではない。大きな目と赤い口紅を引いた唇が印象的な、別人だ。
「朝から呼び出しといて……待ちくたびれたわよ」
「デカい声だすなよ。恥ずかしいだろ」
「ボッチで広いテーブル席に居座るより恥ずかしくないわよ。勉強してるふりするのに読みたくもない本を引っ張り出して演技中よ。女優になれそう」
難しそうなタイトルの分厚い本を示して諒の愚痴を吹き飛ばす。
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