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3年夏の大会
白球が落ちてきた。
センターである俺と、セカンドとショートの真ん中にフラフラと。さながら風に舞う落ち葉のように。
スタンドからの絶叫にも似た悲鳴が球場を包む。
打球までの距離。各々の守備範囲。それらを総合的に考え瞬時に判断したことは、おそらく取れる可能性があるのは俺だけだということ。
それも、限りなく0に近い可能性。
そんな絶望的状況下、景色がまるで走馬灯のようにゆっくり流れる。
限りなく圧縮された時間の中で俺の視界を掠めたのは、この状況を作った投手・成田健吾のニヤケ面だった。
ふざけるな! 打たれたのにヘラヘラ笑いやがって!
俺は濁流のように押し寄せる怒りを内に秘め、がむしゃらに走る。走る。走る。
打球は重力の影響を受け容赦なく加速してゆく。全ての観客が、俺が落下点に到着するのより打球が地面に着く方が早いと確信しているに違いない。
落としてなるものか、絶対に……!
俺は渾身の力で地面を蹴り、左腕を白球に向け千切れんばかりに伸ばした。
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