2年夏。地区予選開始

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 そんな状況で、俺は激しい苛立ちを覚えていた。先ほどのポテンヒットの場面だ。  完全に打ち取った当たりがヒットになったこともそうだが、そもそもあの程度の打球、取れない方があり得ない。  ライトがまともな守備力だったら、今頃とっくにゲームセットだったはずなのに。  ベンチで顔を顰める監督を確認し、ライトを守る先輩への怒りが沸々と湧き上がる。  次打者への初球。俺は怒りに身を任せ、乱暴に腕を振った。  次の瞬間、痛烈な打球が左中間を割っていた。ボールが転々とする間にランナー2人がホームイン。レフトの成田が必死にボールを拾い投げ返すが、間一髪で3人目もホームに返ってきてしまった。  走者一掃。6ー3と、勝敗は一気に怪しくなった。  俺は膝に手をつき額の汗を拭う。さっきまでの怒りは鳴りを潜め、今では試合をひっくり返される恐怖が心を支配していた。相手チームの歓声が俺を責めるように鼓膜を叩く。  もう一度ベンチの監督を伺った。俯き加減で腕を組むその仕草に、俺は次にまた打たれたら交代させられるであろうことを悟る。  チームメイトが何か声をかけてくるが全く耳に入らない。  そして恐る恐る投げた球は、吸い込まれるようにストライクゾーンのど真ん中に向かった。  快音を残し、白球はショートのはるか頭上を越えていった。
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