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「アウトー! ゲームセットッ!」
審判が高らかに宣言した。俺は一瞬、何が起きたのか分からなかった。
二者連続となる左中間の打球に飛びつきアウトをもぎ取ったのはレフト成田だった。地面スレスレで捕球したは良いものの、勢い余って顔面から土のグランドにダイブし激しく全身を打ちつけていた。
しばらく立ち上がれないほどの衝撃を受けながら、それでも奴は決してボールを手離さなかった。
「みんなよく踏ん張ったな。特に楠本は、よく予定通り最後まで投げてくれた」
監督は俺に称賛の言葉を投げかけた。
解散後、俺は肩を怒らせて帰路に着く成田の後を追う。
「おい! 成田!」
振り返った奴の肩を掴み、俺は捲し立てる。
「なんで最後俺を助けた!?」
「……はあ?」
「あそこでお前がキャッチしなければ、俺はお前と交代させられていた! 俺は監督の信用を失い、お前のエースの座は盤石になったはずだ! それなのに怪我のリスクを冒してまで俺を助けて、お前に何の利がある!?」
成田は俺の手を乱暴に引き剥がすと、いつになく低い声で言い放った。
「勘違いするなよ。別に楠本のためにやったわけじゃない。チームのために、やれることをやっただけだ」
「チームのため? お前はこのチームのエースだぞ? なんで主人公が脇役のために身体を張る必要がある?」
「本気で言ってるのか?」
成田は呆れたように首を振った。
「楠本が何のために野球をやってるのかは知らないけれど、俺は、チームで勝つ喜びを味わうためにやってる。みんなと勝てるなら、別にエースは俺じゃなくたって構わない」
吐き捨てるようにして成田は去って行った。
何のためって、そんなの自分のために決まってる。奴の戯言に付き合う必要はない。
なのに、俺は何か俺の中の重大な欠陥が暴かれたような気がし、胸の奥がチクリと痛んだ。
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