地区予選敗退

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地区予選敗退

 崎岡高校野球部は近年では一番の奮闘を見せたが、結局地区予選決勝で延長戦の末敗北し、あと一歩のところで甲子園出場を逃した。  決勝に先発した成田は甲子園常連校のエースと互角に渡り合ったが、打線が援護できず、最後は連投に次ぐ連投の疲労で限界を迎えたところを打ち崩された。  対する俺は準々決勝で滅多打ちにされたのを最後に、ついに投手としての出番が回ってくることは無かった。 「お前らのプレーは最高だった。負けたのは全て俺の力不足だ。甲子園に連れて行ってやれず、申し訳ない」  深々と頭を下げた監督の目には涙が浮かんでいた。なぜ選手でもない、脇役も脇役の彼がそんなに悔しがれるのかが俺には分からない。  分からないことが、何かとてつもなく悲しいことのように思えた。 「……すみませんでした。俺のせいで、先輩方の夏を終わらせてしまって」 「何言ってるんだ成田。お前が居なきゃ、そもそもこんなところまで来ることも出来なかった。本当に感謝してる、ありがとう。  お前たちの代では、必ず甲子園へ行く夢を叶えてくれよ」  相川先輩と成田が、汗と涙まみれで抱き合っている。俺がセンターに入ったことでスタメンを外された先輩だ。  試合にも出られなかった彼がなぜ、感謝を口にするのだろう。あんなにも嬉しそうな泣き顔で。 「楠本」 「横尾、先輩……」  ライトを守っていた横尾先輩。2回戦の時の俺が、足を引っ張りやがってと思った先輩だ。彼もまた目に大粒の涙を浮かべている。 「お前や成田のおかげで、俺たちは夢を見ることができた。本当にありがとう。甲子園には出られなかったけど、お前たちとやれたことを誇りに思うよ」  先輩は何も言えない俺の手をがっしりと握り、何度も何度も上下に振った。  その手の温もりを感じながら、俺はこの人たちのために涙も流せない自分がなんだかとてもダサく、情けない存在に思えた。
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