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「忍野千鶴って言うんだ。千鶴って呼んで」
あの時の千鶴の笑顔が脳裏で蘇る。
靡くカーテンを背景に差し込む光さえもスポットライトの様にしてしまう、圧倒的なカースト上位に属すあのオーラ。私には持ち合わせていない眩い存在感。
こんな時に思い出すなんて。
外に広がる桃源郷の様な景色が目に沁みる。
風に揺れて散る夜桜が私を軽蔑している気がした。
「退いてもらっていい?」
満足したのか、冷静になった君が少し冷たく言い放つ。これが俗に言う賢者タイムか。
スーッと熱が引いて行く。頭がクリアになる。
嗅いだことのない青臭さが鼻腔を通り抜けて骨に染み付いて行く。
痛む下腹部に顔を歪めながら退いて横に座り込むと、君は私を見ることなく天井を見ていた。
その横顔に違和感を覚える。
彼はこんな顔だった?
靄が払われた様な感覚。
何だか違う人に見える
下腹部が痛い。股の間が熱い。体が冷たい。
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