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トーマス・ハーゼスはオレの恋人だ。 顔が良くて、優しくて、優秀で、高収入で高身長。 欠点のない男、それがトーマス。 オレの恋人。 だけど、最近困ったことがある。 夜のことだ。 「ひいっ、あぐ、あうっ!!」 「ん、可愛いな。ヘンリー……」 力強いピストンに押されてベッドにへばりつく。逃げ場のなくなった腰に、待っていましたと言わんばかりに重たい腰と太いペニスをぐりぐり押し付けてくる。彼の太くて長くて熱い棒の先端が開いてはいけないところまで入り込んで、痛みにも似た快楽を激しくまき散らしながらオレをおかしくさせる。 腹の奥で彼のペニスがどくどくと脈打って射精している。ぐったりしながらそれを感じて、彼の息づかいに耳を傾ける。 「ヘンリー……きみの体はシュガーのようだ」 「いいからどいてくれないか? 重いんだけど」 「まだ怒っているのかい、マイ・シュガー」 「怒ってないと思ってるのかこの能天気め!! きみのおかげでオレは、きみの声を聞くだけでっ……!!」 「あー……ははん?」 いじわるい顔。だけどオレが逆らえない顔。 彼の顔を見るだけで、よくないところに熱が溜まる。 彼の声を聞くだけで、お腹の奥が重たくなる。 「だからオレは、きみの新曲のビデオの依頼を断ったんだ……きみの曲、何度も聴くなんてできっこない」 『きみの体はシュガーのようだ』 彼の曲は物寂しいのにくせになる、心に染みる、そんな歌だったはずなのに、今回はとにかく甘くてエロティックで、なにも知らないで聞いたら、どんな心境の変化があったんだって彼ににやけながら問いただしていただろう。もちろん、彼とオレがビジネスパートナーだったら、の話だ。 生憎、彼はオレの恋人だ。 だったら、この甘ったるくて鳥肌が立つような歌詞の中で激しいダンスを繰り広げているお相手は誰かって、言わなくてもわかるだろ!! 最初に聴かされた時、衝撃過ぎて失神するところだった。冗談じゃないぞ、どういうつもりだ! と、聞いたところ彼は爽やかに笑って「きみの姿をきみ自身が見られないことはとても残念なのではないかと思って」といったようなことをぬかしたため、オレは少々、彼との関係を見直す必要性を感じていたところだ。 そして、彼との夜で困っていることというのは、彼がハレンチで鳥肌ものの官能的な言葉を囁いてくることではない。 「ヘンリー、許してくれよ」 と、いいながら引き抜いたペニスのゴムを外して、精液にまみれた棒をオレの尻にすりつけてくる。 ……まだ質量を失っていない、熱いペニスを、だ。 「許してくれよ、きみが可愛いんだ」 困っていること、というのは、そう。 トーマス・ハーゼスが絶倫であることだ。 「待ってくれ、オレは……んんっ」 肩を掴んで仰向けにされたら、逃げ場も無いし目のやり場もない。 鍛え抜かれた体で覆いかぶさってくる金髪のライオンが襲い掛かってきても、自分の無力さを感じることしかできない。 「シュガー」 「待っ……だめだ! 今日は、もうだめ」 「ううん……」 困ったように眉根を寄せて、ぶりっ子な顔で誘ってくる。 そんな仕草に反して、グロテスクな棒をオレの足に押し付けているのだから笑えない。 「だめ、だってば……んん」 そうは言ってもキスは拒めないし、舌を絡めるテクニカルな技巧に大興奮してしまう。 両手を押さえつけられて、角度を変えて何度も何度もキスされると、脳が痺れて正常な判断ができなくなる。彼もそれをわかっている。おっとりしていて、優しい穏やかな男だけど、思いのほか狡猾で、アメリカの競争社会を生き抜いてきただけの胆力と腹黒さがあるのだ。そこがまた、いい。すごくいい。だから……。 「トーマス、んん……」 腹黒さを見せながら甘えられたり、手のひらの上で転がされているとわかっていながらも、そういうことをされるともう、まあいいかという気分になってしまう。いつもオレが彼に甘えているから、というのもある。 キスされながら熱い質量を腹に擦りつけられて、オレはもう仕方ないなとそれを下の方に導く。 「きみ、いいよな。こうやって多くの相手が喜んできたんだろう」 「ふうん、きみだからこうなるんだ。おかしいだろう?」 最後のあがきに萎えるようなことを言ってみるが、色気の百倍返しをくらって黙り込んでしまう。 もう、さっさと終わらせてやろう。爪を立てないようにしつつ、指の先でそれを穴の方に定めてやると、トーマスは色っぽい眼差しでオレを見つめてくる。 互いの意識が同じところに集中するのは気分がいい。心までも一体化したような、精神の快楽を得られる。 「安心していい。少なくとも、きみが私との行為で不満に思っていることがないということは知っているから。今日もきみを喜ばせられるよう、私は努力するよ」 「ずいぶんなこと言うね! だったら後で今夜のきみの評点をつけて、その自信を撤回させ、て、あっ……」 「きみが起きていたら聞いてあげよう」 そう、彼はセックスが上手い男。 頻度の問題さえなければ、オレは彼になんの不満もない。だけどそれを認めるなんてプライドが許さないから、文句をつけていたくせに入れられただけで中イキしたことは言わないでおこう。
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