三角関係の行方。

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三角関係の行方。

川瀬とは頻繁に電話やLINEはしていたが、 なかなか会うに至らず、3週間以上が過ぎた。 8月21日、学校の登校日。 朝の教室に僕と川瀬、佐橋が揃った。 「岸野、おはよう」 「川瀬、おはよう」 「久しぶり。元気してた?」 「うん。夏期講習はどう?大変でしょ」 「課題を片付けるのがね」 川瀬との会話は予想よりもスムーズに行き、 内心ホッとしていた。 視界の端には、こちらを見つめている佐橋。 さっきからやたらと目を細めていて、 何か言いたげな表情をしている。 「ねえ。今日、暇?うちに来ない?」 「えっ。‥‥あ、うん。大丈夫」 川瀬に誘われて、ちらっと佐橋を見ると、 佐橋は横を向き、席についてしまった。 佐橋に言われていたから守ったのに‥‥と 複雑な気持ちになった。 佐橋にベッドで髪を撫でられながら、 抱きしめられていた僕は、 川瀬との関係は変わらず続けること、 川瀬に会いたいと言われれば会うことを 佐橋と決めた。 「セックスは?」 「岸野に任せる。僕が言うことじゃない」 「‥‥できる自信はないけど」 「川瀬が、怪しむよ。今までと変わらない 態度を貫かないと」 「佐橋は、それでいいの?」 「岸野の彼氏は、川瀬だから。残念だけど」 そう言って佐橋は、抱きしめる力を強めた。 「でも、結論はちゃんと出してくれよ? 後から出てきた僕が言うことじゃないけど」 僕はうなずき、佐橋の頬に触れた。 「わかった」 僕がしっかり考えないことには、 川瀬も佐橋も傷つけてしまうから。 既に佐橋は、苦しみ始めている。 川瀬と並んで、学校を出た。 教室に残してきた佐橋が どういう表情をしていたのかは、 確認することはできなかった。 駅のホームで2人電車を待っていると、 川瀬が微笑んで話しかけてきた。 「岸野と会うの久しぶりで、嬉しい。 浮気してなかった?大丈夫?」 「えっ」 浮気という言葉に、僕は怖くなった。 佐橋とのことは、 1度目は事故だと言ってもいいが、 2度目は確実に浮気だと思っていた。 果たして、隠し通せるのだろうか。 思わず真顔になってしまった僕だったが、 川瀬は浮気を疑った自分を責めたようで、 「ああ、ごめん。岸野がそんなことする訳 ないのに。ちょっと心配しちゃって。 ごめんね、変なこと言って」 と笑った。 その後、川瀬に指を繋がれたが、 不安が募るばかりで、 触れられたゆえの恋のドキドキ感は なかった。 自分が撒いた種とはいえ、 これでは身が持たないと思った。 川瀬の部屋に来たのは、初体験の日以来だった。 川瀬とベッドに腰掛け深いキスを始めたが、 なかなか舌を絡めてこない僕に、 川瀬は何かを感じたのか、 キスを途中で止めて、言った。 「岸野、どうしたの?気が乗らない?」 川瀬はどんな時も、優しい。 今だって僕を覗き込むその顔は、笑顔だ。 「‥‥うん。ちょっと考え事しちゃって。 ごめんね」 そう言いながら、僕は気づいていた。 川瀬に優しくされればされる程、 僕の頭の中に現れるのは、佐橋だった。 これが佐橋の言う「結論」なのかは、 わからなかったが、 やっぱり川瀬には言わなければ。 佐橋は川瀬に言うなと言ったけど、 このまま隠しておくなんてできないと思った。 「川瀬、あのね」 「ん?」 ああ。 優しい川瀬のこの笑顔を曇らせるのは、 とてもツラい。 僕の視界は、涙で潤み始めた。 「川瀬に話したいことがある、あのね」 その時、僕のスマホの着信音が鳴る。 「岸野、電話だよ」 「あ、うん」 川瀬に手渡されたスマホの画面には、 佐橋の名前が浮かんでいた。 「はい」 僕は涙を拭いてベッドから立ち上がり、 川瀬から離れた。 「お前、川瀬に言うつもり?」 沈黙を貫いた僕の耳にその後聞こえたのは、 「それなら、僕も同席する」 という言葉だった。 「殴られるのは、僕だけでいい。川瀬に 電話、代わって。会いたいって言うから」 言われるがままに、スマホを川瀬に渡した。 「もしもし‥‥あ、佐橋。どうした?‥‥ うん、いいよ。これから?了解。じゃあ、 1時間後に、学校の正門前で。またね」 電話を切りこちらを向いた川瀬は、 呆然とする僕を抱き寄せて、囁いた。 「2人して、一体何の話? まさか、付き合ってるとか?笑笑」 僕は、黙り続けるしかなかった。 学校の正門前まで川瀬と戻ると、 既に佐橋が待っていた。 神妙な顔でいる佐橋を見て、 横にいる川瀬の笑顔が途切れた。 「公園、行こうか。裏手のところにある」 佐橋の声を合図に、3人で歩いた。 公園は日差しが強いのに、 日陰がほとんどなかったため、 誰もそこにいなかった。 「眩しいね。5分が限度かな」 そう言って、川瀬が佐橋に向き合った。 僕は川瀬から離れ、佐橋の隣に並んだ。 「え?何」 「川瀬、ごめん。岸野とセックスした」 「ごめん。僕が悪いんだ」 僕も、佐橋の言葉に続いた。 「は?何何、意味がわからない。 佐橋と岸野がどうしてそんなことに」 「ずっと親友のフリして、岸野のことが 好きだった。先日、川瀬と岸野が初体験した って聞いて嫉妬して、岸野を押し倒した。 だから岸野は悪くない。本当に申し訳ない」 「佐橋が悪い訳じゃない。川瀬という彼氏が いるのに、佐橋を受け入れた。悪いのは 僕なんだ」 「事情はわかった。終わったことは仕方ない。 それより岸野、今のキミの気持ちは? 僕と佐橋、どっちを選ぶの」 川瀬に核心に迫られ、言葉を失った僕に、 佐橋が代わりに言った。 「今の岸野には、選べないよ」 「何で?」 「だって僕と岸野は、セックス先行の関係 だから。免疫のない、つまり最近まで 童貞だった岸野には、刺激が強すぎるよ」 「そうかもな」 「川瀬、怒らないのか」 「佐橋に『話がある』って言われて、 ああこれは何かあるって思ってたから。 その前から岸野の様子も変だったしね」 「そうか‥‥」 「佐橋。1日でも早く、岸野に結論を出して もらうために、セックス禁止令を出さないか」 「え、セックス禁止令?」 「僕も大して岸野のことを知らないうちに、 セックスしちゃったなあって思うんだ。 時間を取って岸野とデートするから、 佐橋も岸野とデートしてよ。 でも手を触れない、キスしない、 セックスしない。プラトニックな関係で 過ごしてみて、岸野がこの人だったら 付き合いたいって思えるようになれば、 禁止令は終わり。セックス解禁」 「なるほど‥‥いいアイデアかも。 でも川瀬は、岸野が他の男とデートして 平気なの?」 「僕には、受験勉強があるしね。 岸野には、寂しい思いをさせた。 僕に落ち度があるとすれば、 そういうことだからさ」 「じゃあそれで行こう」 「待って?僕、いいって言ってないよ」 「岸野、お前この1ヶ月で何回セックスした? ちょっとくらいしなくても生きていけるだろ」 「佐橋、そういうことじゃなくて」 「きっと、岸野の本性もわかるよね。 我慢できなくて、僕でもない佐橋でもない 奴とセックスしたら、もう僕は別れるから」 「ただの節操のない奴ってことだもんな」 「川瀬も佐橋も、何考えてるの」 「じゃあ決まり。岸野、頑張れ笑」 まさか、こんな展開になるとは。 僕は彼らの突拍子もない提案によって、 セックスを禁止されてしまった。
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