ブラザーズ・ジャーニー

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 「大人になったら、二人で漫画家になろう」――俺たち兄弟はそう約束した。 *  約束とは曖昧なものだ。書面にでも残していない限り、それは何の効力も持たない。片方が覚えていても、もう片方が忘れていたら意味がないし、また、覚えていても破られたのではこれも意味がない。成立するのは、互いに守る意思がある場合のみだ。  幸い、約束事はきちんと守る大人に育ったし、誰かに破られたこともなかった。ただ、仕事の締め切りに関しては危ういことがあるが。 『兄貴、いつ頃できる? 何か手伝えることある?』  弟――健介から催促の連絡が来てしまった。慌てて、今日中には送る、ごめん、と返信する。  俺たちは、兄弟で漫画を描いている。正確には漫画そのものを描いているのは弟の健介で、俺は原作担当。俺が考えたストーリーを、健介が漫画にして描いているのだ。 『リアル兄弟、タツケンコンビ! 見参!』  デビュー時はそんなふうに煽り文句がつけられた。兄である俺・龍彦と弟・健介で、タツケン。兄弟だとわかるようにあえて同じ苗字、本名そのままをペンネームとして使っていた。  子供の頃から俺は空想の話を考えるのが好きで、弟は絵を描くことが好きだった。そして二人揃って、漫画が大好きだった。そんな俺たちが二人で漫画家を目指すのは、俺たちにとってはごく自然な流れだったと思う。  それでも本当に大人になって職業にできているというのは、それこそ漫画のような展開なのかもしれない。  しかし子供の頃の夢が叶っても、人間は欲深いもので、俺にはもう一つ野望があった。それは、小説家としてもデビューすることだ。小説でも挑戦してみたい、と打ち明けた俺を、心優しい健介は許してくれた。漫画の方の締め切りを守ること、という条件のもと活動することとなり、小説サイトに投稿してみたり、賞に応募してみたりと、細々と続けている。  でもそちらの方はなかなか上手くいっていなかった。ほとんどが落選で、佳作をとれても、「アイデアは良いと思います。ただ、文章からいまいち情景や感情が伝わってきません。表現力を磨きましょう」……そんな選評をいただいてしまう。  今年は、自分にとって最後の二十代だった。少し先には三十路が待ち構えている。二十代のうちに何か一本でも、小説として形になるものを残したかったが、それはどうも叶いそうになかった。 *
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