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「や、やめてください……」
学校からの帰り道、小さく助けを呼ぶ声が聞こえてきてため息をついた。このあたりはガラの悪い連中がいるから面倒事も多いのだ。それにしても俺が帰るタイミングでカツアゲをしてるとは……運のない奴らだ。
ノロノロと声のする方へと足を向ければ、同じ制服を着た男連中がスーツを着た女の人を囲んでいた。
「(アイツら……隣のクラスのヤツらか。よりによって女に手を出してんのかよ)」
溢れるため息が重くなる。カツアゲ相手が男ならいいのかと言われればそういう問題でもないのだが、女に手を上げるのはダメだろ。
女をさらに囲い込もうとする連中の肩を掴んで後ろへ引く。体勢を崩した男は地面に尻餅をついた。
「な、なんだテメェ!! 邪魔するんじゃ――」
「オイ、お前ら、馬鹿なことしてんじゃねぇよ」
不満そうに俺を睨みつけてくる三人を逆に睨み返す。
「ヒッ……!? お、お前、隣のクラスの龍条!?」
「なんでこんなところに……!」
凄んでいたヤツらは俺の顔を見た途端急に情けない声を上げ、俺から距離を取るように後ずさった。……全く、ビビるなら最初からロクなことやらなきゃいいのに。
「そりゃ俺のセリフだ。こんなトコでカツアゲとは、ずいぶん良いご身分じゃねぇか、なぁ?」
「ぐっ……」
「俺も混ぜてくれよ」
笑みを浮かべて躙り寄る。ヤツらは徐々に後ずさり、最終的には全力で逃げ出していった。……呆れて何も言えねぇな。根性なさすぎるんじゃねぇの。
「……ったく、面倒な」
「ご、ごめんなさい、わ、わたし、迷惑を……」
「あぁ、アンタのことじゃよ。迷惑とか思ってねぇから……ほら、立ってくれ」
愚痴をこぼせばカツアゲされてたスーツの女の人が肩を震わせた。驚かせるつもりはなかったので慌てて手を差し伸べるも女の人は目尻に涙を浮かべている。……あ、俯いた。
「(やっぱ俺の顔が怖いんだろうか)」
昔から顔が怖いと言われ続けてきた。そう言われても顔なんて生まれつきのモンだからどうにかすることも出来ねぇし、空手やってっから体格もいいから威圧感もあるとか言われるし……。別に怖がらせたいわけでもないのに相手は勝手に怯えるし、ガラの悪い連中には絡まれるし……適当にあしらってたらソイツらも俺を恐れるようになるし……本当、面倒くさいことこの上ない。
「あ、あの、ご、ごめんなさい、た、助けてもらったのに、し、失礼よね」
「いや、気にしてねぇんで」
怖がられるのには慣れてるから気にしなくてもいいんだが、女の人は涙目で何度も首を横に振った。
「わ、わたし、男の人が、に、苦手で、いつもこう、なの」
「あー……」
思わず苦笑いを浮かべてしまう。怖がられてるのは俺が怖いっていうか男の人がダメだったのか。男が苦手な上にガタイも良くて強面の男なんて最悪だろうな。涙を浮かべて怯えるのもよく分かる。
あまり長居しては彼女に負担がかかるだろう。立ち去るにも無言だと失礼だと思ったので、女の人に一度声をかけることにした。
「あの、すぐに立ち去るんで、俺のことは気にせず」
「い、いえ! あ、あの……」
「何か……?」
「こ、腰が、ぬけてしまって……その、うごけ、なくて……」
……なるほど。さっきからずっと立ち上がらないなと思っていたが、立ち上がらないんじゃなくて立ち上がれないんのか。
「あ、あの……?」
「背負います。乗ってください」
「えっ、えぇ!? そ、そんな、ごめいわく……」
「じゃないんで、気にしないでください。あんた一人ここにおいてけないんで」
「あ……わ、わかりま、した……!」
覚悟を決めて女の人が俺の肩に手を乗せる。そのまま俺の背中に体重を乗せる。……暖かさと柔らかさを感じて一瞬体がフリーズした。
「? あ、あの、何か……」
「何でもねぇ、何でもねぇです……」
「そ、そうですか……?」
不思議そうな女の人に俺は無言を貫くのだった。
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