13人が本棚に入れています
本棚に追加
1.小学生時代
小学校の同じクラスに子役タレントで金井夏葉がいた。
映画やドラマでも活躍しているその子を見ていたら僕も「そっち側」に行くことができるような気がした。絶対に行ける、何の根拠もなかったけれど僕はただ信じていた。
彼女が女優さんなら、僕はお笑い芸人として売れるんだ、そして僕がテッペンを取ったら、同じ小学校だったんだってテレビでも対談するんだ。そしたら、同級生だったみんなはきっと驚くんだろうな。
そんなことを小学校六年の秋のある日、その子に話した。
彼女の本名は冬木果耶なので、僕は「冬木さん」にそんな話をした。
「うん、慎吾くんなら絶対にお笑い芸人になれると思う。絶対売れるよ!」
春の午後のひなたにいるような笑顔を僕にくれた。
日頃から芸能界に関わる彼女に言われたら、根拠のない自信は尚更強くなっていった。
よくよく考えると、「いつか対談しよう」とは言ってくれなかった。
それでもお互い売れたならば、いつかどこかで出会うこともあるだろう。そんなことを胸に秘めたまま僕は小学校を卒業した。
しばらくして、違う中学に進んだ金井夏葉は芸能界を突如引退し、どこか別の中学に転校してしまったと聞いた。
僕はと言えば、同級生の祐太とコンビを組んで、いつか売れるはずと毎日のようにネタを考えて大人に近づいていった。
最初のコメントを投稿しよう!