嫉妬に苛まれる、モテモテ大学生の恋の行方。

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嫉妬に苛まれる、モテモテ大学生の恋の行方。

ずっと彼を信じて、 愛し続けていけると思っていたのに。 きっかけは、彼に宛てた一通の手紙。 取り巻きのメンバーとランチをしていた 時に、佐橋が託されたものだった。 「岸野くん‥‥手紙預かってきた」 「それって、ラブレターじゃない?」 やるねえと取り巻きのひとりが、 ひたすら困っている彼の肩を叩いた。 周りは佐橋以外、僕たちの仲を知らない。 表向きは新しい取り巻きのひとりで、 以前と同じく「川瀬くん」「岸野くん」と 呼び合っていたから、まさか僕たちが 付き合っているだなんて知られずにいた。 僕は、彼の顔を見つめた。 どんな相手であっても、 彼が僕以外を選ぶ訳がない。 2人の絆は強いと思っていたし、 その辺の奴には決して負けないと 思っていた。 とはいえ、気になることは気になる訳で。 だから何気ない感じで、 手紙を開いて一読した彼に問いかけた。 「知ってる子からの手紙?」 「うん。同じゼミの女の子」 「返事はどうするの?」 「ちゃんとしてあげないとって思ってる」 「そうだね。断るにも誠意がないとね」 「うん」 僕は新宿のラブホで、 彼が言った言葉を思い出していた。 愛することが苦しいと思っていることを 知った彼は、一緒に悩んで行こうと 言ってくれた。 そんな彼が、僕を裏切る訳がない。 しかし、僕は見てしまったのだ。 昼休み、彼を探して見つけた教室の隅で、 手紙の彼女と思われる女の子と彼が、 キスをしているのを。 「由貴」 動揺する彼の手は、 彼女の腰にしっかり回されていた。 気まずそうに彼から離れた彼女を 横目に、彼に歩み寄った。 「信じられない‥‥」 「聞いて。これは」 次の言葉を言いかけた、彼の頬を叩いた。 「サイテー」 そして、掴まれていた手を振り払い、 その場から逃げ出した。 僕は、何を見せられたんだろう。 愛する彼氏の裏切りに深く傷ついて、 次の授業を受ける教室で待っていた 佐橋を連れ出し、中庭で泣いた。 周りは僕の涙に気づき、何事かと囁く。 佐橋は彼に会い、話を聞くと言ったが、 聞く必要はない、見せられたものが 全てだと突っぱねた。 頑なに彼を否定している僕に、 佐橋は立ち上がり、その場を後にした。 他の教室で授業を受けているはずの彼を 探すと言い残して。 ひとりで泣いてたら笑い物だと、僕も 立ち上がり、トイレに入って顔を洗った。 今日はこれ以上大学にいるのは無理だと 佐橋にLINEして家族の待つ自宅に帰った。 「由貴、佐橋くんが来てるよ」 母の声が、自室のドアの向こう側から 聞こえた。 傍らのデジタル時計は、18時を差していた。 泣きながら、いつの間にか寝ていたようだ。 ソファから起き上がりドアを開けると、 佐橋と彼と、彼とキスしていた女の子が 立っていた。 びっくりしてドアを閉めようとしたが、 彼に足で止められた。 「話、聞いてもらえる?頼むから」 「嫌だ!」 「川瀬、とりあえず中に入れてくれよ」 佐橋が彼を応戦するように、言葉を挟む。 「私からもお願いします。ちゃんと話し ます」 彼女に言われ、ドキッとした。 いったい、何だっていうんだよ。 ひとつ息をつき、ドアを開けた。 佐橋と彼、彼女が横一列に並んで 床に座っている。 僕だけソファに座り、高いところから 彼らを見下ろした。 「川瀬が見てしまったことは、 不運な事故のようなものだったんだ」 最初に佐橋が口を開いた。 「事故?」 眉を顰めた僕に、彼が答えた。 「付き合えないなら、せめてキスして くれって言われた。断り切れなくて、 ごめんなさい」 彼の横で、彼女が言った。 「川瀬くんが岸野くんと付き合ってる って私、知らなくて。知ってたら、 たぶんこんなことは言わなかった。 本当にごめんなさい」 「違うよ。原因は、葵の優柔不断 さってことだよ。断れないって何? 妹の時はちゃんと回避したのに。 葵、もしかして彼女に気がある んじゃないの?」 「川瀬」 佐橋がたしなめるように口を挟んだが、 僕は彼を睨みつけながら言った。 「今後も同じようなことがあるたびに、 キスしてあげるの?いい加減にしてくれよ」 「ごめん」 頭を下げた彼に、更に言った。 「葵には、僕の気持ちはわからないよ!」 彼に向かってクッションを投げつけたが、 怒りは収まらない。 「川瀬くん、ごめんなさい」 とうとう彼女が泣き出したが、 おい、泣きたいのはこっちだよと思った。 「川瀬。これは不可抗力だ。 事故を目撃したと思って、岸野くんを 許してやれよ」 佐橋の言葉に黙ってしまった僕を、 彼は見つめた。 「時間がかかってもいい。僕は由貴との 付き合いを諦めないから」 そう言って立ち上がり、部屋を出て行った。 「川瀬。これ以上、意地を張るなよ。 俺たちも帰るから」 彼女の肩を抱き、佐橋も立ち上がる。 彼らが部屋を出て、 ひとりになった僕は、また泣いた。 こんなに泣いたのは、久しぶりだった。 翌日大学に行くと、 僕が中庭で泣いていたのを見た誰かが、 噂を広めていた。 「川瀬由貴は男が好きで、取り巻きの ひとりである岸野葵に振られた」と。 勝手に言ってろと思った。 しかしいつも積極的に関わってくる 取り巻きが今日に限って誰も寄り付かない。 だから、珍しくひとりでランチをした。 佐橋や彼は、どこに行ったんだろう。 結局、その日は大学で見かけなかった。 授業が終わり、電車に乗ってバイト先に 向かった。 21時。カフェのバイトが終わり、 自宅へ帰る電車の中で、佐橋にLINEした。 『僕は、彼を許すしかないのか?』 しばらく経ってから、返信が来た。 『とことん自分の気持ちを突き詰めて、 許せるようになってからでいいんじゃない』 許せるようになるのかは、わからなかった。 それでもスマホの待受画像の彼を見つめた。 僕だけの彼が、一瞬でも誰かと触れ合った。 不可抗力とはいえ、彼が僕から離れた。 恐れていたことが起きてしまったと思った。 彼と距離を置いてから、2週間が経った。 取り巻きがいなくなり、ひとりで過ごす のも慣れたが、教室に入ると噂話をする 他人の声がやたらと気に障った。 後ろの隅の席に座った僕は、彼がひとり 最前列の席に座っているのを見つけた。 そう言えば出会った頃、彼はひとりだった。 ホワイトボードの文字を書き写す時に、 時折見える横顔が、もう知らない人に 感じていた。 こうやって人は距離を置き、遠ざかるのか。 寂しさと愛しさが、交錯していた。 彼に歩み寄るきっかけは、掴めずにいた。 それから更に2週間経った、金曜日。 朝から土砂降りの雨が降っていた。 中庭でのランチはできないからと、 学食でひとり焼きそばを食べていると、 テーブルをトントン叩く音がした。 顔を上げると、彼が立っていた。 「向かい側、座っていい?」 定食の入ったトレイをテーブルに置き、 向かい側の席に座った彼は、 「由貴、元気で過ごしてる?」 と聞いてきた。 「何とか」 彼と口を利いたのは、1ヶ月ぶりだ。 彼から視線を外し、ガラス窓から見える 雨粒に目をやった。 「まだ、無理かな」 彼は畳み掛けるように、言葉を繋げた。 「葵」 彼に顔を向け、名前を呼んだ。 「ん?」 「許したいけど、何かもうよくわからない」 「わからない?」 「自分がどうしたいのかが」 「ねえ。午後の授業が終わったら、 少し時間取れない?」 「‥‥今日、バイトないし、大丈夫だけど」 「了解。じゃあ図書館の入口で」 そう言って定食を食べ始めた彼を見つめた。 それまで食べていた焼きそばは、すっかり 冷めて硬くなっていた。 彼の部屋に来たのは、 初めてのセックスをした時以来だった。 あの日と同じようにコーヒーを淹れて もらい、2人で飲んだ。 「由貴」 彼に抱きしめられかけたが、身をよじって それを拒否した。 「ごめん‥‥あの彼女は、元気?」 「たぶん。もう、関わりないから」 言葉は、そこで途切れた。 彼の匂いが好きで、声が好きだったのに。 何故、今はこんなに苦しいんだろう。 涙が溢れて、止まらなくなった。 「由貴」 彼に両肩を抱かれ、引き寄せられた。 胸の中に収まったが今度は嫌じゃなかった。 「ごめん‥‥一生、償うから、僕をそばに 置いてくれないか」 彼の囁きに似た声が、部屋に響いた。 「葵」 「どうして、僕はキミを裏切ったんだろう」 「わからないよ」 「許してくれなくていい。でも、離れたく ない。ずっと一緒にいて欲しい」 きつく抱きしめられ、身体が苦しくなった。 「葵、苦しいよ」 「うんって言うまで、離さない」 本当にごめんと囁かれ、小さく頷いた。 僕だって、離れたくないと思っていた。 傷ついた今だって、こんなに愛してる。 もう離れたくない。 彼のいない、ひとりの世界はごめんだ。 「キス、しても大丈夫‥‥?」 慎重に言葉を紡ぐ彼に、僕は微笑んだ。 「うん」 彼が顔を傾けて、僕の唇に自分の唇を 重ねてきた時、また涙が出た。 まだ苦しいけど、彼を愛し続けたい。 彼の背中に腕を回しながら、 彼がキスした彼女を好きにならなくて、 本当に良かった。 これからどうなるか見えない恋だけど、 彼と一緒ならきっと大丈夫だと思った。
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