その声に歌と約束を乗せて

2/6
前へ
/6ページ
次へ
あれから月日が経ち、舞台役者を目指していた少年鳳条隼人(ほうじょうはやと)は17歳になっており劇団『Special World』の劇団員として舞台に上がっていた。 だが学生ではある為、普段は舞台には上がれず長期休みの時だけ舞台に上がれる様になっていた。そしてそろそろ夏休みを迎えようとしており、隼人が主演の舞台をやろうとしていた。 「あれから…10年か…」 「お兄ちゃーん!!」 後ろから勢いよく突撃されて「うげっ!」と悲鳴を上げながら前に倒れそうになったが何とか耐えるとクルリと振り返り、突撃してきた妹鳳条日和(ほうじょうひより)の肩を掴んで前後に揺らした。 「危ないだろう!お前に何かあったらどうするんだ!」 「そこは自分じゃないんだね…えへへ、ごめんなさーい」 笑顔で謝る日和に隼人は「気をつける様に」とだけ伝えると持っていた台本を開いた。 今回やる舞台は何をやっても上手く行かない青年が歌姫から勇気を貰い成長していく舞台で、青年を隼人。歌姫を日和がやる事になっていた。 台本を眺める隼人に視線を感じて、視線のした方を見ると笑顔の日和と目があってしまった。 「早く歌姫さんに会いたいね」 「…そうだな、あれから10年…今、調べてもどこにいるのか、分からないからな…」 しみじみとしていると、「おーい」と2人に声を掛けながら同じ劇団員の人がやってきて2人は首を傾げながら問いかけた。 「どうしました?佐久間さん」 「座長が全員に大事な話があるって」 “大事な話”という言葉に隼人はこれからやる自分の舞台に関係することではないかと思うと、日和とすぐに練習場へ向かった。 「お、来たか」 練習場へ行くと、隼人と日和以外の劇団員が揃っており隼人は顔を真っ青にしながら問い掛けた。 「ま、まさか!今度やる公演の話ですか!?」 「おお!まさにその通りだよ!次やる舞台なんだが、役者の変更をしたいと思っていてね」 まさかの役者変更に隼人はすぐに座長の前で土下座をして懇願しだした。 自分が主役から変えられると思ったからだ。 だが返ってきた言葉は違うらしく、座長に顔を上げさせられると座長が口を開いた。 「今回変わるのは隼人くんじゃなくて、日和ちゃんの方だよ」 「わ、私?」 「な、なんだってー!?日和の演技に何か不満でもあるんですかー!座長ー!!」 座長の胸ぐらを掴んで前後に揺らす隼人に全員で止めて、何とか落ち着くと座長が日和に謝罪をしてから口を開いた。 「実は今回スペシャルゲストを用意していてね、その子に歌姫をやって貰おうと思っていて」 「日和と同じくらいの演技が出来るなら構いませんよ!」 「私はお兄ちゃんが主役なら全然いいですよ!」 ニコニコ笑いながら言ってきたマイペースな日和の発言に隼人はツッコミを入れたくなったが座長の顔がパァァっと明るくなった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加