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「今、その子に来てもらっているからね!入っておいでー」
座長が扉の外に向かって声を掛けるとガチャっと扉が開く音がし、劇団員は全員扉の方を向いた。隼人も不満気だが扉の方を向いた。
そこにいたのはショートカットで身長が高い綺麗な方で全員見惚れてしまい、日和も頬を赤らめて「綺麗…」と呟いた。
「ええー…月森詠くんだ!小さい頃、歌姫として活躍をしていたんだが…最近舞台からは離れていてね…」
「月森…詠……あ!!」
「お兄ちゃん!もしかして!!」
隼人と日和は顔を見合わせてからもう一度詠の方を見て確信すると、隼人と日和はお互いの手を掴んだ。
詠は小さい頃見た舞台で歌姫をやっていた子だった。
まさかの一緒に舞台に立つという約束が叶いそうで、隼人は嬉しそうに笑うと日和と一緒に喜び出した。
だが詠はムスっとした表情で隼人達を見ていた。
「ああ、彼、鳳条隼人くんが今回の舞台の主役なんだ。その隣にいるのが妹の日和ちゃんで。彼女が本来歌姫役だったんだ」
「はぁ…」
「やっと約束が果たせるな!一緒の舞台に立つという!」
ガシッと詠の手を掴む隼人に詠は嫌そうな表情をするとすぐさま振り払い、手をパンパンと叩いて埃を払うような動作をした。まさかのことに驚きを隠せずにいると詠が口を開いた。
「勘違いしないでくれるかい?今回、親と座長が知り合いで“歌姫”を題材にした舞台だから手伝いに来ただけだよ」
「え!?舞台に立たないのか!?」
「立ちたくないね、舞台なんて!」
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まさかの事にショックが隠せない隼人はズーンと落ち込んでおり、日和が何とか慰めていた。
約束を忘れてしまったのか、と思っていると日和が「お兄ちゃん」と声をかけてきて手をガシッと掴んできた。
「日和…」
「大丈夫!絶対私が詠さんを舞台に上げるからね!」
「しかし…日和、お前はいいのか?歌姫の役を取られて…」
問い掛けると日和はきょとんと目を見開いて「え?なんで?」と逆に問い掛けられて、隼人はその場に崩れそうになったが何とか耐えると話し出した。
「いや、お前だって歌姫の役頑張っていただろう!それを全くやる気のないアイツに取られて…悔しくないのか?」
「…私はお兄ちゃんが主演で輝いている舞台が好きだよ、それにせっかくあの時の約束を果たすチャンスなんだよ!お兄ちゃん、ずっとあの人と同じ舞台に立ちたかったんでしょ?」
日和の言葉に隼人は少し考えてからコクリと頷くと、日和は嬉しそうに口角を上げて笑い立ち上がって天を指すようなポーズを取った。
「よし!そうしたら詠さんが舞台に立てるように説得をしなきゃ!!」
「お、おー!!」
こうして詠への説得が始まったのであった。
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