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それから隼人と日和は詠をあの手この手を使って歌姫にしようとしたが尽く躱されていき、冷たい言葉を浴びせられ、全戦全敗状態でガックシと項垂れていた。
「こ、こんなにも…敵が強いなんて…」
「お兄ちゃん!大丈夫だよ!ちょっとずつ詠さんの気持ちは揺らいでいるよ!」
「ほ、本当か!?日和!!」
「多分!!」
自信満々な表情と声色で言ってきた日和に一瞬隼人は固まってしまったが、ニッと口角を上げるとビシッと指をさすポーズを取り声を上げた。
「これくらいで諦めてたまるかー!!頑張るぞ、日和!!」
「アイアイサー!!」
しかし相手は手強く、隼人と日和がどれだけ頑張っても相手もしてくれなかった。
そんな事している内にも舞台の初日は近づいてきていて、隼人は青年の役をもっと良くする為に練習に打ち込んでいた。一応歌姫も日和がやっていて、このまま日和でいいんじゃないか…と隼人の頭に過ったが、小さい頃の思い出を思い浮かべるとやはり詠と一緒にやりたいと約束を果たして欲しいという思いが強くなっていた。
「しかし…どうすればいいんだろうか…」
「そうだね…」
練習の合間、廊下で落ち込む隼人と日和。お互い寄りかかりながら色々考えていると2人の耳にピアノの音が聞こえてきた。誰かが練習で弾いていると思ったが、今回の音楽は全てパソコンで作成したと劇団員さんから聞いている為、ピアノを弾くというシーンはなかった。
じゃあ誰が…と思っていると、次に聞こえてきたのは低く綺麗な歌声だった。
すぐに隼人と日和は顔を見合わせて同時に頷き確認をすると走ってピアノが置いてある部屋に向かった。
部屋の前に着くと扉にガラスが付いているのでそこから中を覗くと2人は嬉しそうに笑った。
ピアノを弾いて歌を歌っていたのは詠だったのだ。
綺麗な歌声は子供特有の高さは無く低くはなっているが、それでも“歌姫”という言葉がぴったり合う歌声だった。
歌い終わったのと同時に扉を開けて隼人と日和は拍手をしながら詠に近づくと、詠は目を見開いて驚きすぐに椅子から立ち上がった。
「き、聞いていたのか…」
「詠さん!やっぱり歌うまいですね!歌姫にピッタリですよ!!」
「ああ!さすが歌姫だ…あの時と全く変わっていない!!」
日和と隼人がそれぞれ感想を伝えると詠は眉間に皺を寄せて睨んできて、2人は顔を見合わせてやらかしたか?と考え出した。
するとゆっくり詠の口が開いた。
「…綺麗なんかじゃない…こんな低い声、歌姫に合わない」
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