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十和子がニンジンを台所に持って行って、流しの台の上にそれを置いた。そして、片付けをするため、すぐに奥の部屋に戻っていった。
その直後、台所で白いものが動いた。
大根のぬいぐるみだ。
それは、音もたてずに流しの台に登ると、ニンジンの体をそっと揺すった。
「おい、大丈夫か」
ニンジンがピクリと動いた。
「うう…」
「逃げるぞ。やつらはすぐに戻ってくる」
ニンジンの正体は、マンドラゴラのドラコである。
居住している401号室を抜け出して、ぶらぶらと気分良くマンションの中を徘徊している最中、運悪く十和子と美加子のケンカに巻き込まれ、頭を打って気絶して、雑誌の下に埋まってしまっていたのである。
「動けるか?」
大根のぬいぐるみが、ドラコの耳元に囁いた。
この大根のぬいぐるみの正体は…、これも不思議な生命体である。このマンションの西側にある桜の木の付近に、自分で小屋を作って住んでいるらしい。
ドラコがようやく口を開いた。
「すまぬが動けぬ…。ワシとしたことが…、不覚…」
「しゃべるな」
相手の状態を察した大根は、素早くマンドラゴラを自分の背中におぶらせた。
そして、何の気配もたてずに窓を開けて外に出ると、姉妹の部屋のベランダから、暮れかけた空の下に姿を消した。
(完)
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