8.

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 十和子がニンジンを台所に持って行って、流しの台の上にそれを置いた。そして、片付けをするため、すぐに奥の部屋に戻っていった。  その直後、台所で白いものが動いた。  大根のぬいぐるみだ。  それは、音もたてずに流しの台に登ると、ニンジンの体をそっと揺すった。 「おい、大丈夫か」  ニンジンがピクリと動いた。 「うう…」 「逃げるぞ。やつらはすぐに戻ってくる」  ニンジンの正体は、マンドラゴラのドラコである。  居住している401号室を抜け出して、ぶらぶらと気分良くマンションの中を徘徊している最中、運悪く十和子と美加子のケンカに巻き込まれ、頭を打って気絶して、雑誌の下に埋まってしまっていたのである。 「動けるか?」  大根のぬいぐるみが、ドラコの耳元に囁いた。  この大根のぬいぐるみの正体は…、これも不思議な生命体である。このマンションの西側にある桜の木の付近に、自分で小屋を作って住んでいるらしい。  ドラコがようやく口を開いた。 「すまぬが動けぬ…。ワシとしたことが…、不覚…」 「しゃべるな」  相手の状態を察した大根は、素早くマンドラゴラを自分の背中におぶらせた。  そして、何の気配もたてずに窓を開けて外に出ると、姉妹の部屋のベランダから、暮れかけた空の下に姿を消した。 (完)
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