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ざけんな!
なめんな!
これでも前にいた店ではナンバーワンだったんだよ。あたしが本気になれば、まだまだ客は呼べるんだ! てめえごときキモじじいなんかに水揚げされてたまるか!
そう言いたかったのに、あたしの悪い噂が広まっている現状、かつてほど客を呼べないのも事実だった。電話をかけても、「枕営業してるんだってな」と言われ、「見損なった」とあしらわれることが多くなった。
何もかも、アヤカとエリーのせいだ。あいつらさえいなければ、あたしは枕営業なんてやらずに済んだ。『桜霞』でナンバーワンを張って、他のキャストから憧れられる存在でいられたんだ。せめてあの二人が客と寝るような女だったら、あたしはもっと伸び伸びと仕事ができた。枕営業も裏引きもせず、堂々と接客し、もっと稼げていたはずなんだ。
日に日に、あたしの悪い噂が広まっていく。くだらないキャストからも陰口を叩かれ、醜い女を見るような目で見られる。
『桜霞』はいい店だ。格も高く、客層もいい。あたしのキャリアとしても、『桜霞』に在籍することが大事だと思っていた。
アヤカとエリーを辞めさせるのは難しいだろう。だからと言ってあたしが辞めるのも負けたみたいで悔しい。でも、『桜霞』でナンバー2だった事実があれば、別の店に移っても相応の報酬は得られるはずだ。そうしたら今度こそ枕営業はやらず、程良い色恋営業だけでナンバーワンに君臨できるかも知れない。
煙草を揉み消し、昨夜脱がされた下着を身につける。少女時代のあたしがこの姿を見たら幻滅するに違いない。どす黒い嫉妬に焼かれ、好きでもない男に抱かれる娼婦になってしまった。この体内に、何人の男が入ってきただろう。気持ち良くもないのに喘いで見せ、汚いものを舐め、愛のような言葉を言う。自分こそ薄汚いメス猫だ。あたしに一番欠けていたのは、たとえ負けても自分を大事にする心だったのかも知れない。
エリーは昨夜、ビジターに指名され、黒ドンを二本もおろさせた。あたしも客にねだってボトルを数本入れさせたけど、この差は月末に大きな差となって表れるだろう。たかが友達営業の分際で、どうしてあたしより売り上げるんだ。枕営業をやってるあたしがどんどん汚れて、あの女は何にも傷つかずに階段を駆け上っていく。悔しい。悔しいどころか、憎らしい。せめてエリーだけでも蹴落とせたら、あたしは気分良く『桜霞』を辞められるのに。
──あいつに負ける未来があまりにも近く感じて、不安ばかりが降り重なっていく。
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