《悲哀のシズカ》

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 いっそ幕谷さんに(こく)ってみようか。  一晩だけでも抱いてもらえたら、それを口実に付き合うこともできるかも知れない。  アヤカとエリーが幕谷さんに恋愛的な感情を持っていないのは分かっている。そうならば、そこを突破口にしてあいつらを出し抜くしかない。  頭の中は、いかに勝つかとばかりを考えていた。もはやアヤカとエリーに恋しているんじゃないかって思うぐらい、あいつらのことばっかりだ。──こんな自分が、すごく、すごく嫌いだ。  なまじナンバー2でなければ良かった。ナンバー8ぐらいにいたら、ここまで争うこともなく、()()()に身を捧げることもなかった。  でも、落ちたくない。  この座から落ちてしまうことが何よりも怖い。  今夜も私は店に行き、キモじじいどもに()びを売るだろう。そして金を落とさせ、見返りに誰かと寝るだろう。アリ地獄みたいなセックスの沼。最近では(ちつ)も濡れず、痛みが多い行為となった。どこかで抜け出さないと、あたしは心を壊してしまうような気がする。  ある程度は純粋だった少女の頃に戻れたら、あたしは絶対あたしに言う。 「水の仕事だけはやめておけ」と。  負けず嫌いで、嫉妬心が強く、上昇志向も強いあたしは、こんな仕事をするべきではなかった。(かた)()の仕事をしていれば、必ず良い方向へ行けたはずだった。  カーテンをザアッと開け、朝霧に濡れた街を見つめる。  この世界は汚い。  欲望ばかりが(うず)を巻いている。  はみ出してしまったあたしは、一体どこまで落ちていくのか……。  そのとき、ふと、下腹部に痛みが走った。下着の中の股間に手を当てると、指が赤く染まった。──生理だ。  ああ、今夜はセックスをせずに済む。  そう思ったら、あたしは何だか無性に、泣けてきた。
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