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あたしは驚いた。男の見栄だってあるだろうに、そんなことを告白するとは思わなかったからだ。身体の関係がない関係。そんなもの、あたしの価値観にはなかった。
「あなたの商売柄、男と寝ることが必要なのかも知れません。逆にぼくは身体的に、あなたを満たすことができない。恋愛も結婚も前提とせず、営みすら否定しながら紡ぐ関係には興味がありませんか。ぼくは昨夜、ぼくらだからそれが可能なんじゃないかって思いました。そのために必要なら、ぼくはあなたが勤める店にだって通いますよ」
どうしてそこまで言えるのか、あたしは甚だ疑問だった。ほぼ見ず知らずの者同士なのに、まるで想いを込めた告白をされているみたいだ。
「ねえ、市村サンは、あたしのカレシになりたいわけ?」
特定のカレシなんか、もう四年以上作っていない。仮にそうなりたいと思っても、仕事の邪魔だと切り捨ててきた。特に枕営業をするようになってからは、嫉妬や喧嘩が怖くて諦めていた。
「いえ、ぼくはあなたのカレシには相応しくない。肉体的にも金銭的にも幸せにできないし、ぼくは、あなたを利用したいだけです。お互いに利用し合って、どこかで折り合いがつけばいいと思っています」
あたしは首を傾げた。利用とは、どういう意味だ。
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