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リレーの前に余興が二つある。『余興』というのは、お玉リレーと玉入れだ。どちらもお祭りと言っていい競技。もちろん、ジェイにとっては初めての体験ばかり。普通の玉入れなら経験あるが、R&Dの玉入れはちょっと違う。
お玉リレーは、お玉にピンポン玉を入れてリレーをするというもの。障害物競走と同じグループで行った。澤田、浜田、ジェイ、橋田、新人、蓮。
競争とは言っても、ちょっとピンポン玉を持ってだとかなり勝手が違う。澤田が三度落とし、浜田が二度。他のグループは結構順調に見える。焦ったジェイはお玉を受け取ると走ってしまった。
「走るな、ジェイ! 走るなって!」
そんなグループからの周りからの掛け声がジェイの耳に届いていない。何度も落とす。
(どうしよう、どうしよう!)
その時蓮の大声が聞こえた。
「ジェイ! 落ち着いて歩け! 手を揺らすな!」
周りを見ると走っている者があまりいない。深呼吸をして手を揺らさないように速足で歩いた。だが、落とす。今度はもっとゆっくりと歩いた。
(落ちない! このくらいでいいんだ!)
自分でどれくらい時間を使ったか分からない。待っているのは橋田だ。
「大丈夫よ、ジェイ! 焦らないで!」
橋田が怒っていないことで落ち着いた。やっとお玉を渡して座り込んでしまった。
(これが一番難しいよ!)
けれど楽しかった。冷静に見回すと結構落としている。若いほど焦っていて、やはり走る者もいた。見ている内に笑い出す。走った者たちは今度は慎重に歩き出して、かなり真剣な顔をしている。
(なぁんだ、俺と変わんないや!)
それでやっと安心した。一位は中山のグループ。始まる前に中山が「走るな、慎重に歩け」と言い含めていた。
ジェイのグループが最下位だったが、ジェイを責める者はいない。
「ずい分派手に落としたな!」
そう言って笑われる。
「ごめんなさい」
「いいって。こんなのお遊び競技なんだから」
澤田がくしゃくしゃとジェイの髪をかき混ぜた。
次の玉入れも面白かった。バレーボールのポールを出してくる。籠はその上の方に括りつけられた。7メートルくらい離れた床に、白いテープが張られる。
「小学生がやる玉入れじゃ面白くないので、このラインから投げてもらいます。3巡したところで勝負は終わり! 入った数で競います」
グループはさっきと同じだ。
ごれがなかなか入らない。加減が分からない。一巡目に入れたのは陽子。次に新人の女性。障害物競走で派手に転んだ女の子だ。
「男じゃ力が入り過ぎるのかな」
離れて見ると籠が小さい。小さな玉は的を通り越したり手前に落ちたり見当違いの場所を通過したり。ばらつきが大きくて全く入らない者もいる。器用さがものを言うらしい。
2度入れたのは哲平とリオ。花も翔も1度も入らなかった。蓮もだ。ジェイは1度入った。
「花さんに勝った! れ、河野さんに勝った!」
「このやろー、なに喜んでんだよ!」
花が文句を言うが知ったことじゃない。こんな競技でも勝ちは勝ちだ。花に追いかけられて哲平の後ろに隠れる。
「ばか、本気になるなよ、子どもたちも見てんのに」
呆れたように哲平が花に言う。それも可笑しかった。
そして、いよいよリレーが始まる。
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