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リレーの不参加者は二人。転んでしまった新人女性。大したことは無かったが、明日は打ち身で腫れることだろう。そして和田。やはり足に負担がかかる。
チーム表は当初の計画とはがらりと変わり、きれいに組み直されていた。走者は100メートル走り、アンカーは200メートル。かなりの見ごたえがあるだろう。
走りが苦手のメンバーには結構屈辱的なチーム表だ。女性から始まり、比較的(と、補足を付けておこう)足の遅い者たち。そして後半に走りが得意な顔ぶれが並ぶ。それぞれのチームに等しいと思われるハンデが付けられているわけだ。
蓮も正直、自分ではハンデ組だと思っている。100メートル走で力を使い果たしているからだ。その分、桜井が女性の中では速い。
ファミリーの会や、応援に来ている人たちが期待を抱いてメンバーを見ている。これは面白いリレーになりそうだ、と。
それぞれのチームは、間際までバトンの渡し方を練習した。バトンを落とせば目も当てられない勝負になる。
「リレーの要とも言えるんだから失敗は無しだ」
花にきっぱりと言われて怯えるチームメンバーは、必要以上に何度も練習した。
今回のスターターは和田が務める。女性陣によるスタートだから、陸上の専門的なスタイルではなく、普通に走り始めることになっている。
「ヨーイ!」
真剣な表情の女性陣。ピストルの音で飛び出したのはやはり桜井。軽快な走りで他の女性を1.5メートルは突き放した。
バトンを受け取った二番手。上がったり下がったりで、順位は一位尾高、二位池沢、三位達夫、四位田中となった。
桜井が飛ばしている。ジェイのチームは池沢が遅いと言っても、受け取った新人がそれなりの速さを見せた。
それに比べて翔のチームは澤田が遅い。すぐに一位をひっくり返された。完と野瀬もそれほど速くは無い。一位③「ジェイチーム」、二位④「花チーム」、三位②「リオチーム」、四位①「翔チーム」。
引き継いだ第四走者たちで団子状態に。一位③、二位②、三位④、四位①。
そこから順位の様相ががらりと変わった。小野寺が速くて、そして木内が速くて、広岡だ。蓮は疲労しているとはいってもそこまで順位を下げない。順位は一位①「翔チーム」、二位③「ジェイチーム」、三位④「花チーム」、四位②「リオチーム」。ここまで大差がない。
第三走者は、やはり館野が速い。そして中山が危なげなく走り、哲平、浜田が続く。一位②、二位①、三位④、四位③。
そしてバトンがアンカーの手に渡る。リオが先陣を切り、翔、花、ジェイ。それぞれがチームの命運を握っている。
最初の50メートルほどはリオが一位を取っていた。翔がリオとの差を詰めて追い抜く。しかし、今度は花があっという間にリオを抜き、二位の翔を抜いた。
いくらも経たない内にジェイはリオと横並びに。さらにリオに1メートルほど開けてジェイが翔の横を駆け抜けた。
一位を奪った花が風を切って走っていく。二位のジェイとの差は約2メートル。その差は大きい。だがジェイも徐々に前に上がっていく。
とにかくジェイは楽しくてしょうがない。人前でチームを背負って花を追いかけている。初めてと言っていいほどの高揚感。
(花さんに勝ちたい! 追い抜いてゴールに入りたい!)
抱いたことの無い欲が生まれて来る。
花は自分を追ってくるならそれはジェイだろうと思っている。残り50メートル弱。さらに加速した。後ろから足音が聞こえる。
(ジェイ、お前に負けるわけにはいかないんだ。悪いな、俺が一位だ)
緊張の中ほど実力を発揮する花はさらに速度を上げた。なんとしてでも負けるわけにはいかない。その花にジェイが追いすがる。
ゴールを切ったのは花が速かった。2メートルの差は大きかった。それでも花とジェイとの差はほんの30センチほど。体一つ分だ。
「危なかったぁ! お前に、抜かれるとこだった」
花の息が荒い。
「また負けちゃった……すごく悔しい! 俺、花さんに、勝ちたかった」
花はジェイの頭をぐしゃぐしゃとかき回した。
「悪い。リレーだからその前の順位もあるし。先輩としてもお前に負けるわけにはいかないからさ」
蓮は小野寺に負けたわけだが、そう悔しくも無い。今日は存分に走った。明日は休みだし、今日はゆっくりジェイと湯舟に浸かろうと思う。
「河野さん、まだまだ現役だね」
そう言う中山に苦笑いをする。
「いやもう引退だよ。でも今日は楽しかった! 久々に陸上をやった気分だ」
「俺もですよ。あの感覚っていいもんです」
こうしてR&Dの運動会は終わった。どの顔にも……達夫たち一部を除いて……いい疲労感が表れていた。
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