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「あ、来たよ。」
夏生さんに言われ、選手が入場してくる姿を見下ろす。
その中には、一成の姿が・・・。
今年の日本選手権、そこに決勝まで残れた。
400メートルの自由形だけでなく、他の距離でも。
「一成ってさ、もっとパワーで泳ぐのかと思ったら、案外静かに伸びるように泳ぐよね?」
「夏生さんよく分かりますね、流石です。」
一成が私の通っていた水泳スクールに来た初日、先生達の中でも意見が割れているようだった。
その時の一成は、ダイナミックに泳ぐ・・・そんな泳ぎ方だった。
でも、それは・・・
「おじいちゃんから泳ぎを教てもらって、海で泳いでたって私が先生に言ったんです。
そしたら、直されました。
入念に・・・綺麗に直されました。」
「海で泳ぐとさ、違うんだよね。
海では海の泳ぎ方がある。
それに、泳ぎ方もどんどん変わってきてるからね、より速く泳げるように。」
夏生さんの言葉に、私は頷く。
そして、自分のレーンのプールサイドに立つ一成の姿を見る。
「一成、予選の時もあんな感じだったよね?
全然緊張してなくて、やっぱり凄い。」
夏生さんに言われ、また頷きながら一成を見る。
一成は・・・笑っている。
他の選手達が身体を少し動かしたりしている中、一成は静かに立って・・・プールの向こう側を見て、笑っている。
きっと、目もキラキラさせているはず。
きっと、私を見ている・・・。
中学1年生の時の私を・・・。
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