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流れ星の燈
その日から毎日、私は先輩と共に夕陽を観てから、夏の大三角を眺めてはペルセウス流星群を観察した。
どうしてかはわからないけれど、なんでか先輩と一緒にいるのが心地よく、くだらないやりとりをしては、流れ星に願い事を繰り返した。
ライトも持たずに出て来ることが当たり前になっていたけれど、今日はしっかり懐中電灯を持ってきた。
亜麻色の髪が風にさらわれていく後ろ姿を見て、ホッと肩を撫で下ろす。
山の上に登る手前にある石積みの階段前、先輩は畔道を眺めていた。
その背中を見るたびに、まるでどこか遠くの世界からやってきた人のように見えてしまう。
「せーんぱい!」
ツンと背中を人差し指で突くと、肩を揺らしてこちらを振り返り見る。
赤茶色の瞳が私を捉えては、困った表情を浮かべて口角を引く。
「びっくりした。今日も来てくれてありがとうね」
「何もすることないからいいですよ」
長い黒髪を揺らし、山からおりてくる涼しい風に毛先が靡く。
さわさわと木々が揺れると、18時を報せる町内の至る所に設置されたスピーカーから、赤とんぼの曲が流れた。
今日の夕焼けはオレンジ色が強くて、空は蜜柑のように温かな色味をしている。
夕陽にもいろんな色味があることを、先輩と天体観察するまで知らなかった。
いつも同じ景色、同じことの繰り返しだと思っていた。
同じことの繰り返しだけど、それは毎日同じことが起きているわけではないことを知った。
クラスメイトから向けられる悪意にばかり気が取られて、この田園風景にすら気がつけなかった。
水の張られた田んぼ。
青々と茂った田んぼ。
農家の人たちが他愛のない会話をしながら歩く畦道を通りすぎて、蛙の鳴く声に耳を傾けては、虫の音色と共に心が穏やかになっていくのを感じた。
町内のお知らせ。
そう書かれたベニヤ板で作られた看板には、夏祭りのイラストが描かれたポスターが大きく張り出されている。
そっか、夏休みだもんね。
花火かぁ。
ここの山の上なら観れるのかな?
私の目の前を歩く先輩を見て、勇気を胸に声を上げた。
「先輩!」
「ん?」
振り返ることなく階段を登る彼を見上げながら、私はそれとなく話を始めた。
「さっき、夏祭りのポスターありましたね」
「あー、明日だもんね。君は行くの?」
「いえ、、、」
「そっか」
長い長い石畳の階段をゆっくり登る中、重い空気が流れた気がした。
きまずい。
「先輩は、誰かと出かけるんですか?」
ドキドキするのは、自分が先輩から誘って貰えたらと思っているからだろうか?
変に緊張しているのは、先輩がかっこいいせいだろう。
「うん。クラスメイトと行く約束してるよ」
なんの期待をしていたのだろう。
こんな変なことを言う先輩でも、友達くらいいるだろうに。
期待してるのを見られるのは恥ずかしい。
「そうですよね!その、女の子にもモテモテですもんね」
なのに私は要らぬ一言も付け加えてしまう。
何をしているのだろう。
髪を一房手に取り、心もとなさからいじってしまう。
「うーん、そうなのかな?みんな病院生活だった僕を可哀想に思ってくれてるだけじゃない?
賑やかなの嬉しいけど、ちょっと疲れちゃうんだよね。楽しいことの代償かな」
鬱陶しいという気持ちだけど楽しみにしているのだと伝わってきて、何故か心の奥がツンと痛かった。
今、こうしている時間よりも?
「先輩人気者ですもんね、イケメンですし」
「イケメンに見える?
肌は青白いし、他の男子に比べてヒョロヒョロなのに?」
ピタッと足を止めて、先輩は右腕を持ち上げて力こぶを作る素振りを見せてはへにゃりと頼りなく笑う。
「ほら、力こぶも出来ない男ですよー」
「あ、本当だー!」
クスクスと笑うと、先輩はぷくぅと頬を膨らませた。
「先輩に向かって失礼な子だなー」
「先輩が自分で言ったんじゃないですか」
そうだっけ?ととぼけてみせると、再び階段を登りはじめた。
夏祭り、、、明日は先輩と星の観察できないんだ。
そう思うと、なんだか悲しくなった。
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