流れ星の燈

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ただ毎日、こうして天体観測をするだけでも特別なことだった。 私はそれがどれほど貴重で、奇跡的なのかをよく理解していたつもりだった。 まほろ先輩の言葉で、胸の奥が熱くなったのを 「ふふ、まるで魚みたい」 さっきまで拗ねていた感情なんて吹き飛び、浮き足立つような心地で笑った。 とびきりおめかししていこう。浴衣を着ていこうか。メイクもしていこうかと考えながら、先輩の薄い笑顔を見上げていた。 彼の背後に見える、流れ星が一筋流れるのを見て、今日も綺麗だと思った。 「地球という名の金魚鉢の中を僕は泳いでる。 ここは人が多くて、いつもいつも笑顔でいなきゃいけない。とても息苦しい世界だ。酸素を求めて 宇宙(そら)を求めてしまう魚だね」 なにそれと笑う私を優しく見守るように、先輩は階段を登り始めた。 他愛のない、脈絡もない会話をしていくだけなのに、どうしてこうも心地よいのだろう。 人と話すことがどれだけ楽しかったかを思い出させてくれる彼は、不思議な話をしたり、宇宙の話をしてくれた。 それはそれは見事な流れ星を観ながら、吸い込まれていきそうな暗く深い空を見上げて。 先輩は色白で細く、頼りなさげに微笑むのに、どこか頼もしく思える時があって、話しているだけなのに彼の魅力に惹かれていった。 飾り気のない、素朴な彼の言葉や仕草。 大人のような、しっとりした落ち着きのある彼は哲学的なことを言って私を困らせたりするけれど、私を馬鹿にしたり、透明人間扱いをすることなんてなかった。 「宇宙人と恋愛したいって言ってたじゃないですか。宇宙人になんて告白するんですか?」 茂みに隠してあったレジャーシートの上にいつものように座って、私はまた意味を持たない質問をする。 そんなくだらない会話がとても楽しい。 彼は真剣に眉間にシワを寄せて、うーんと首を傾げている。 「どんな宇宙人かにもよるよね」 「人型の宇宙人にしましょ!その方がロマンチックだし!流石にタコみたいな顔の宇宙人とじゃ雰囲気出ませんし、イメージ的にも」 「人型の宇宙人かぁ」 再び彼は頭を悩ませると、思いついたように宇宙を指差した。 「僕と一緒に、月へデートに行きませんか」 思わずドキッとしたのは、彼が私を見つめながら言ったせいだ。 「く、くっさー!!セリフが下手というか」 「だめかなぁ。月でデートしてみたいけどなぁ。 火星でも良いけど」 「あ、確かに月でデートとか楽しそうですね。 ぴょーんってジャンプしたり、ふわふわって出来そう」 なにその、ふわふわって?と真剣に首を傾げられ、思わず吹き出した。 彼はよいしょよいしょポカンと首を傾げるので、それが可愛く見える時がある。 どうにか理解しようとイメージしてくれているのか、目を瞑って唇を結っている。 眉間にシワを寄せて、私の言葉を噛み砕こうとしている。 あぁ、私、人と話している。 そんな実感を噛み締めていた。
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