流れ星の燈

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ケホケホと軽い咳を彼は込むと、独特な呼吸音がそばで聞こえた。 ヒュー、ヒューという聞き慣れない音。 彼はポケットから玩具のような、手のひらサイズの青いボトルを取り出した。 それを口に咥えて、プッシュするとカシュっと音が鳴った。 「先輩?」 「ごめん、、、。ここに来ると時間とか自分が病気だってこと忘れちゃって。 、、、出てくる時に薬飲み忘れて来たんだ。 驚かせたかな」 苦しそうに顔を歪めていたのを見た。 なのに、その“薬”を吸い込んでまも無い彼は、心配させまいと笑顔を貫いている。 あぁ、そうか。 彼は患っているのだった。 普通の人のように急かしてしまった。 私がもっと気を遣ってあげなきゃいけなかったのに。 話している間は、全くそう感じさせなかった。 薬は即効性があるのか、いくぶん表情が和らいできた。 「いえ、、、私、もっと先輩のこと知っていかないといけないなって思っただけですから」 俯く私を横目に、彼はふふっと笑った。 「僕を知りたいなら、毎日ここに来てね」 時折、不規則に流れていく流星。 このピークが過ぎる頃、私と先輩はもっと仲良くなっているのだろうか。 赤茶色の瞳に星を宿して、彼はいつものように微笑んだ。 「夏のこの時間は2人だけの秘密だからね」 「秘密、、、」 オートクチュールのような言葉。 特別にあつらえたようなワードは、波打つ水面のように胸の中に広がっていくのを感じた。 友達がいない私にとって、意味のある秘密だった。 毎日、こうして天体観測をしていることがどれほど特別なことか。 私にとっては特別でも、彼にしてみたらそうでもないと思っていた。 それにと言われたら、嬉しくて仕方がない。 彼は病気についてあまり触れて欲しくなさそうにしていたし、私も触れる勇気はなかった。 施設に戻ってから、彼の病気のことを調べた。 猿でも分かる病気の仕組みというサイトを開いて、わかりやすく説明してくれている病気を口に出して読んだ。 シンプルな折り畳み式のテーブルに肘をつき、唇をとがらせる。 「“慢性的な炎症によって起こる病気。” ちょっとした刺激でも発作って起きちゃうんだ、、、。 人混みとか、大丈夫かな、、、」 言われてみたら、クラスにいる時や集会の時はマスクしていた気がする。 私の知らない先輩がまだいることを知って、もっと近づきたいと思った。 仲の良い友達はきっと、色々知っているはずだから。
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