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――ゆるさない、ゆるさない、絶対にゆるさない。
僕の心は奪われた。
朝起きたら、胸にぽっかりと穴が開いて、真っ白な空間が広がっているような状態になっていた。
いつものようにふとした疑問を考察しようと思ったのだが、その空間に疑問を投げ込むと炭酸の泡のようにしゅわりと消え、何も考えることができない。
どうやら僕の心は盗まれたようだ。
幾重にも施錠された僕の秘密金庫から、あっさりと心を盗んでいった怪盗が現れた。
誰が、何時、何故で、何のために?
僕は制服に着替え、階段を下りて居間に向かうと、食卓にはすでに冷めた朝食が用意されていた。
食卓の前に座ると、朝食の梅干しご飯を食しながら、台所に立つ母親を見つめた。
梅干しとご飯。
いつもならここで「梅干しとご飯……?」と推理を巡らすはずなのだが、何も感じない。心が盗まれたことが原因だ。これは困ったことになった、鋭い洞察力が働かない。
盗んだ犯人は誰だろうか、僕の心にどれくらいの価値があるというのだ。
まさか……母親が犯人? 都合の悪いことが起きて、隠蔽工作のために盗み出したのかもしれない。
どんな反応を示すのか、母親に質問を投げかけてみることにした。
「母ちゃん、聞きたいことがある。僕の心どこに行ったか、心当たりはないかな」
母親はくるりと振り向くと、パーマ頭を掻きながら、僕が手に持つご飯茶碗をじっと見つめた。
「あー、あれ、ね。父ちゃんが全部食べちゃったから、何も残ってないよ。梅干しで我慢して」
父親が食べた? あれは食べれるものではない。どうやら母親は何かと勘違いしているようだ。この反応からすると母親は……シロ。
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