ボクのココロをうばったキミを『ゆるさない』

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 僕はノートに一文を書き加えると、彼女に返した。 『君に打ち明けたいことがある。放課後、体育館の裏に来てくれないか』と。  それを読んだ彼女は緊張した面持ちで、僕を見つめた。どうやら事件の重要性を察してくれたようだ。彼女は頬に両手で当ててしばらく考え込むと、コクリと頷いてくれた。  放課後になり、僕は体育館の裏の木陰で青々とした樹木にもたれながら、これまでの経緯を自由ノートにまとめていた。頭が働かない以上、少しでも手掛りを書き留めておくべきだと考えたのだ。  心が奪われたと気づいたのは今朝のこと。昨日の朝は……まだあったはずだ。  それは赤点の答案用紙を親に見つからないよう巧みに本の隙間に隠した記憶があることが証拠だ。その時点ではまだ頭は冴えていた。  今日遅刻した理由は、昨晩目覚ましをかけ忘れて寝坊したため。この時すでに心はなかった。  そうなると、心が消えたのは昨日の朝から就寝までの約十六時間以内のこと。施錠された自宅で寝ている隙に盗まれたとは考えにくい。  昨日あった出来事を整理していくのが早いかもしれない。 「遊佐くん……?」  僕が口と鼻の間でシャーペンを咥えていると、卯月さんから声がかかった。僕はシャーペンを手に持ち替え、クルクルと回すと耳に挟んだ。 「やあ卯月さん、よく来てくれた。ありがとう」 「打ち明けたいことって……」  彼女は興味津々な上目遣いで僕を見つめてきた。彼女を助手として選んだのは、間違いではなかった。 「君に協力してもらいたいことがあってね。大変な事件が起きたんだ」  彼女はきょとんとした顔をすると、肩を落としてふうっと溜息をついた。 「ああ、さっきの件ね。なんで……私?」 「いつも僕の言葉に耳を傾けてくれて、明晰な回答と可愛い笑顔で応えてくれるのは君しかいない。実は僕の心が奪われてしまったんだけど、犯人を捜しているんだ。僕の心を奪うなんて、ゆるせない。残念だけど今の僕では思考が働かない。そこで君に助手として犯人捜しを手伝ってほしいんだ。僕のことを理解してくれている君なら、きっといい手掛りを見つけられるはず」  彼女は困ったような、笑うような、呆れるような複雑な表情を見せると、片手で口を塞いだ。
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