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「かなりストレートで歪曲した表現ね……。でもワトソンくん、よく考えてみて。それは奪われたのではなく、どこかに落としたのではないのか?」
「落とした?」
なるほど、てっきり奪われたものと思い込んでいたが、落とした可能性もありうる。
彼女はうーむと考える仕草をすると、ニヤリと微笑み、人差し指を僕の顔に突きつけた。
「君がその心を落としたかもしれない場所を想像してみて」
「それは難しい質問だな……僕の記憶力のなさを知らないのかい? それに訂正しておきたいことがある。僕が探偵のホームズで、助手のワトソンは君だ」
「どっちでもいいわ。記憶の問題ではない。急に胸が苦しくなったとか、頭に血が上ったとか、そういう感覚はなかった?」
「頭に血が昇ったか……あ、ある。たしか中庭にいた時に急に熱っぽくなったかもしれない」
「それじゃあ、中庭に移動してみましょう」
卯月さんと二人で校舎の間にある中庭へと足を運んだ。
「ここで僕は弁当を広げながら、中庭にある花壇を眺めていた」
「その時、何が起きたの?」
「そうだなあ、あ、花壇の後ろにある渡り廊下を、女子生徒達が歩いてきていた」
「ああ……そこには誰がいたかな?」
「卯月さん、悪いけど渡り廊下の上に立ってみてくれるかな」
彼女は渡り廊下にたどり着くと、僕のほうを振り向いた。
「こう?」
「もう少し右。そう、そこ! 花々に囲まれた君が僕のほうをちらりと見た。その時、急に熱っぽくなって、ソーセージを落とした記憶がある」
「そこで落としたのはソーセージだけ?」
「心はまだあったはずだ。ソーセージに付いた砂を綺麗にはたいて食べたから」
「あ、それお腹壊すからやめたほうがいいと思う。他に心当たりは?」
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