ボクのココロをうばったキミを『ゆるさない』

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「午後の体育の時間に息苦しくなったかもしれない。でもそれが心を失くしたことと、どういう関係が……?」 「その謎を解き明かすのは、まだ早いわ。まずは君自身が理解しないと見つからないものだと思うから。体育館に行ってみましょう」  二人で表の体育館入口から中に入ると、部活中の同じクラスの西間(にしま)さんに出会った。成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能の西間さんは明るい笑顔で、僕達に手を振ってくれた。 「あれ? 遊佐くん、卯月さん、二人お揃いでどうしたの?」  流れる汗をキラキラと輝かせながら、バスケットボールをバウンドさせる彼女の仕草に僕の顔はなぜか熱くなるのを感じた。 「遊佐くん……今、何か感じたでしょう?」  卯月さんが目を細めて僕を睨んできた。確かにこれは何かの手掛りかもしれない。 「ああ、今彼女を見た時、顔が熱くなるのを感じた」 「やっぱり。心を盗んだのは彼女という可能性はないの?」 「どちらかというと、僕はあのバスケボールのことが気になった」 「二人でさっきから何を言っているの?」  西間さんから問いかけられると卯月さんは慌てて返事を返した。 「何でもない、何でもない、ただこいつの遊びに付き合っているだけ」 「遊びなんかじゃない。僕は真剣に考えている」 「ええと、ひょっとして痴話喧嘩ですか」 「違うんだ、僕の心が奪われてしまった。それを今は二人で探している最中」 「きゃー、なんて大胆なセリフ!」  西間さんが急にキャピキャピし始めた。 「西間さん、悪いけどそのボールを貸してくれないか?」 「え? ボール? 別にいいけど、はい」  西間さんからボールを受け取ると、僕はふと思い出したことがあった。 「そうだ、体育の時間に転がってきたボールを手に取った瞬間、頭がクラクラしたんだ」 「そのボールはどうしたかな?」卯月さんが問いかけてきた。 「ボールを追いかけて卯月さんが僕のところにやってきた。そしてボールを渡した時に指が触れた。その時めまいがしたのを覚えている」  僕は卯月さんに持っていたボールを渡してみせた。彼女はボールを弾ませながら、僕に問いかけた。 「そう……それじゃあ、ここで心を落としたんじゃない?」 「いや、卯月さんの体操着が汗で透けていた記憶が刻まれている。観察力はいつも通りだった。どうやら、ここにもなさそうだな」 「どこ見てんの。西間さん、邪魔してごめんね。彼が探し物していて、その相手をしているんだけど、ここにもないみたい。遊佐くん、行こう」
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