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卯月さんが体育館を出ると、僕はその後についた。
「んー、もういいんじゃない? 心がなくても生きてはいけるよ。そんなことより、お腹空いてきたから、何か食べに行かない?」
そういうわけにはいかない、このままではとても大切だったものを忘れてしまいそうだ。考えることも、勉強することも、食べることすらままならない。待てよ……食べること?
「そうだ、思い出した。たしか昨日ファーストフード店に行った時、胸が苦しくなったんだ」
「ファーストフード店? それはどこ?」
「駅前のハンバーガー屋」
「そこに君は行ったの?」
「ああ、小腹が空いたから食べて帰ろうと思って、一人で」
「ぼっちか。偶然ね、私も行ってたのよ。これから二人で行ってみようか」
「そうだな、ヒントが見つかるかもしれない」
僕達は駅前のハンバーガー屋に向かうと、レジでハンバーガーを注文した。僕は激辛ホットチリバーガーのセット、卯月さんはフィッシュバーガーのセットを頼んだ。
僕は昨日座ったところと同じ席に座ると、コーラを飲みながら辺りを見回した。
「僕はここで一人でダブルチーズバーガーを食べていた。そしたら卯月さんが何人かのクラスメートと一緒に店に入ってくるのが見えた」
「そうね、でも君がいることに私は気づかなかったわ」
記憶が蘇ってくる、僕は遠くからじっと彼女を見守っていた。そして見てしまった、絶対にゆるせない衝撃的瞬間を。
「その時、僕は目撃したんだ。君が……イケメン山口のジュースに……口をつけているところを」
「ああ、あれ?」
「あの時、僕は胸が苦しくなった。そして心の糸がプツンと切れてしまったような錯覚に陥った。僕が失くした心の名前を思い出した……その名は『恋』。あの瞬間、僕は恋に落ちていたことに気づき、同時に失恋をしたんだ。心は奪われたんじゃなく、自分で切り離したんだ。そうすれば苦しい想いをせずに済むと思って。でもこんなにもすべてが味気ないものになるとは思ってもみなかった」
「爆笑、恥ずかしい言葉の連発。でもよかったじゃない、心を見つけることができて」
「見つけることはできたけど、もう戻ることはない。僕の恋はこの場所で終わったんだ……」
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