バティアス

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バティアス

小高い丘の上が、浅黒い紫色の瘴気に覆われている。瘴気は太陽の光によって、そのもやの隙間から、様々な色の光をちらつかせていた。周囲の気温が、一気に生ぬるくなってゆく。 (ここまでだな。) ヤヌクは思った。これ以上このまま進むと、体が瘴気の毒に浸食されてしまう。 ヤヌクは手ごろな場所を見つけると、背中に背負った麻袋から、四角いブロックを取り出し、近くの草の上にぽんっと投げ捨てた。  すると、ブロックはバンッと音を立ててひとりでに一人用のテントになった。その一角をぺろりとめくり、ヤヌクはブロックから出来たテントの中へと荷物を投げ入れた。 ヤヌクは振り返りテントの三方に小さな棒を建て、そのうちのひとつの棒に、何やら液体をかけた。すると、その液体は他の棒を探すかのようにテントを這った。 液体は周りの景色となじみ、かなり近くに来てもそこにテントがあることが分らない。ヤヌクはテントの一部を手で叩いて出来を確かめた。コンコンと音がする。 「よし。」 これで安心して作業を進められる。
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