1.青年王は美形につき、お断り

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「お、こ、と、わ、り!」  大きく口を動かし、はっきりと。けして相手が聞き誤ることのないように言い放てば、対面した美しく整った顔があからさまに歪んだ。  冬の夜空に煌々と浮かぶ満月の光で染めたかのようなプラチナブロンド。厭味なくらいに高い鼻は額からすっと筋が通っていて形が良い。その両脇の目元は深く窪み、長い睫毛に縁どられた瞳は南国の海のように真っ青だ。 (綺麗な顔って、不細工な表情をつくっても、結局は綺麗なのね)  マーシャはこれほどの美形を未だかつて見たことがなかった。――とは言え、彼女がその美しい造形に見惚れたのはわずかな時間だけだ。  美形だから何だと言うのだ。美形贔屓は世の常だが、誰もがそうとは限らない。少なくとも自分は無条件で美形を優遇したりしない。だいたい、美女や美少女ならともかく、男の顔が美しいだなんて‘美しい’の無駄遣いではないか! と、自分でもよく分からない苛立ちが込み上げてきた。  かくいうマーシャは、自分の容貌を人に褒められたことが一度もない。腰まで届く黒髪は艶もなく湿気を含んで広がり放題だし、紫色を帯びた瞳は気味が悪いとしか言われない。誉められないままに長い長い時を見送り、しだいに、いまさら誰かに何かを言われたところで素直に受け入れる気持ちもなくなってしまっていた。  マーシャは儀礼のために跪いていた体を起こして立ち上がる。すると、裾の長いチュニックが布擦れの音を響かせながら流れるように彼女の細い足首を隠した。
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