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黒橡色のチュニックは胸のすぐ下で帯を締めており、帯には黒地に銀糸の刺繍が施されている。マーシャは目元が隠れるくらいにフードを深く被ると、漆黒のマントを翻して玉座の青年に背を向けた。
石造りの縦長の部屋は謁見の間だ。その出口をマーシャは睨み付ける。両開きの大きな扉の左右に槍を掲げた兵士が立っていて、彼らはマーシャと視線が合うと互いの槍を交差させて彼女の行く手を阻んだ。
マーシャは地団太を踏んで体ごと大きく玉座を振り返った。
「あたし、忙しいの! この都にだって長く留まるつもりはないわ。人を探しているの。その人がここにいないのなら、あたしだって、ここにはいられない‼」
玉座はマーシャが踏み締める床よりも数段高い場所にある。その大部分は鮮やかな赤い生地に覆われ、背もたれや肘置きは金で飾られている。そうした位置関係のせいで、マーシャが玉座の青年を見ようとすると、どうしても上目遣いになってしまう。
一方、青年の方も不機嫌を取り繕おうともしない青い瞳でマーシャを見下ろしてくる。
「探し人は何者だ?」
「あたしの運命を変えた大事な人。――あたしの『騎士』様よ!」
「騎士様だと?」
「ええ、そうよ、『騎士』様よ。必ず探し出して、彼の力になりたいの。今のあたしがあるのは、彼のおかげだから!」
捲し立てて言えば、少しばかりスッキリとした心地になってマーシャは顔を上げた。
すると、玉座の方から歯ぎしりが聞こえてくる。ほっそりと長い指がプラチナブロンドを掻きむしり、盛大なため息がマーシャに向かって放たれた。
「俺はどうなる?」
「え?」
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