1.青年王は美形につき、お断り

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「お前が俺に剣を抜けと言ったんだろ。三年前、カンタベリー寺院の庭で、石に突き刺さった剣を。あれを抜いたがために俺は今ここに座っている」 「それは……」 「この国が今どういう状況なのか知っているはずだ。俺の即位に不満を持った諸侯や他国の王たちが戦を仕掛けて来ようとしている。それなのに、お前は、お前が玉座を与えた王を放り出し、どこに行こうと言うんだ? 無責任過ぎると思わないのか?」 「あたしが貴方に玉座を与えた? 違うわ。あたしはただ、師匠に命じられた通りにしただけよ。剣が突き刺さった石のもとに貴方を案内しただけ」 「だから、俺が剣を石から引き抜くと、お前はすぐに姿を消したのか? ――探し出すのに三年もかかった」  悔しそうに、そして、寂しそうに声を漏らされて、マーシャは次に言うべき言葉を見失った。改めて玉座に深く腰掛ける青年の姿をまじまじと見つめてしまう。  ほっそりとした手足に、頼りなさを感じさせる肩。伏せた目元には睫毛の影が色濃く下りていて、憂いを帯びて見えた。  ズルいことに、この美形の青年王は、ある年齢を超えた女性の庇護欲を激しく駆り立てる表情と態度に長けていた。未熟さを隠すためのぞんざいな態度を一変させ、ほんの少し顔を俯かせるだけでいい。そうすれば、大抵の女性たちは彼の望みを叶えずにはいられなくなるのだ。  この時、マーシャも魂を奪われたかのように動作を止めて、彼の物悲しげな表情を見つめながら、あともう少しで彼の望みを叶えるために優しい言葉を唇に乗せようとしていた。  ――だが、そうはいかない。  マーシャは今朝方された彼からの仕打ちを思い出した。
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