1.青年王は美形につき、お断り

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 たかだか石に突き刺さった剣を引き抜いたというだけで王になった青年が治める国をログレスという。  その都のキャメロットから些か離れた地に深緑の森が広がっており、マーシャはその森の奥に居を構えることに決めた。昨日のことだ。  大きく育ったオークの木を見つけると、太くて頑丈な枝の上に赤い屋根の小さな家を建てる。まるで子供の秘密基地のような家は、根無し草のようにブリタニアのあちらこちらを旅しているマーシャの馴染みの仮家だ。彼女はどこに流れ着いても似たような小さな家を大きな木の上に建てる。  マーシャは昨夜遅くに完成したばかりの家で朝陽を迎え、その出来栄えを味わいながら窓の木枠に頬杖を着いて森を眺めた。青みかかった瑞々しい緑色の光が淡く辺りを包み込んでいる。  陽の光を透かした若葉の屋根が風にざわめく度、ふわふわと羽毛のような苔を敷いた地面に落ちた木々の影がまるで万華鏡を覗いているかのようにその模様をくるくると変えていた。  木漏れ日は薄絹の長い長いドレスのように揺らめいて、緑青色に輝く木々の上にあるだろう美しい女神の姿を想像させる。 (ああ、良い天気! ブリタニアには珍しくよく晴れたわね。気持ちの良い朝だわ。何か良いことがありそう)  マーシャは高く両手を空に突き上げ、大きく伸びをした。冷たくて美味しい空気を肺いっぱいに吸い込むと、大きな幸福も一緒に胸の中に吸い込めるような気がした。 (ここなら、きっと会えるような気がする! 今度こそ。きっと‼)
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