1.青年王は美形につき、お断り

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 見たところ、確かに彼らは王宮から来た兵士のようだ。皆、身なりが良く、甲冑を纏っている。がっしりとした体格をしており、鍛えられている様子が見て取れた。 (やだ。どうしよう)  彼らの甲冑が重そうなので、ひとり、ふたりなら隙をついて逃げられるかもしれない。だけど、残念なことに隙をつけるような人数ではない。それに、しばらくはログレスに留まりたいと考えている。となれば、その国の王とのいざこざは可能な限り避けたかった。 「賢者としての扱いを要求するわ。貴方たちがあたしをきちんと遇するのなら、貴方たちの王のもとに出向いてあげてもいいわ」   本来ならば、用件のある王が賢者を尋ねて来るべきだと暗に告げたマーシャを、兵士たちは軽く鼻で嗤う。 「我が王は『魔女』を捕えて連れて来いとの仰せだ。――火を」  彼らの中で一番年長だと思われる男が、マーシャを見上げたまま視線を外さずに、まるで彼女に聞かせるかの如く傍らの男に命じた。  命じられた男の甲冑がガチャガチャと音を響かせる。マーシャの家の真下に移動したようで、その男の姿がマーシャの視野から消えた。 マーシャの胸に不安が生まれる。いったい何をされるのだろう。姿が見えないだけに不安はどんどん膨らんで、マーシャの胸を圧迫する。  やがて、カッチカチと独特なリズムが深緑の森に響き始めれば、マーシャは居ても立ってもいられなくなった。 (まさか本当に……っ⁉)  もどかしさや苛立ちすら覚えるその音は、火打石を打つ音だ。彼らは本当にこの森の中に炎を放つつもりなのだ。それもマーシャの足もとに!
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