1.青年王は美形につき、お断り

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 マーシャは兵士たちに連れられて街の中を城塞に向かって進む。その道は城塞に近付くにつれて細くなり、迷路のように入り組んでいった。  大きな城門をくぐり、城塞の中に入る。中はもっと複雑だ。城門を入ってすぐはちょっとした広間になっているのだが、そこから一歩でも奥に入ると、マーシャはたちまち方角を見失った。  肩をぶつけ合わねば擦れ違えないほど道は狭く、階段を上ったかと思えば、すぐまた下りることになる。同じくらいの大きさの石を積み重ねて建てられた壁を横目に何度アーチをくぐったことだろう。屋外なのか、屋内なのか分からない薄暗い通路を抜けて、ようやくマーシャは兵士たちから歩みを止めるようにと指図を受けた。  大きな扉だ。両開きのそれの前に立ち、首を逸らして見上げれば、全面に大きく動物を模した紋章が描かれている。  蛇だろうか、蜥蜴だろうか。――いや、ドラゴンだ。裂けた口から鋭い牙が生えている。  扉は内側から開かれた。促されて中に入ると、扉はマーシャだけを呑み込んで閉ざされる。マーシャは部屋の内側で扉の開閉をしていたふたりの兵士たちを一瞥してから、石造りの薄暗い部屋を見渡した。  縦に長い部屋だ。床には赤い絨毯が敷かれ、それを目で追っていくと、部屋のずっと奥の方に段がある。それを数段上がった先に玉座があり、そこに足を組んで座っていたのが、――彼だった。  あっ、とマーシャは短い言葉を呑み込んだ。三年前の出来事が一瞬にして甦り、マーシャの脳裏を駆け巡る。それはその年の最初の雪が降り始めた日のことだった。  うっすらと雪化粧されたカンタベリー寺院。
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