1.青年王は美形につき、お断り

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 ひどく慌てた様子の少年の口から吐き出される息も白い。  彼が必死に走って自分を追いかけてくるので、マーシャも必要以上の力を出して懸命に走った。  寺院の庭には大きな石が転がっている。その石の前まで駆けてくると、マーシャは足を止め、まっすぐ腕を伸ばして少年に指し示す。  マーシャの指し示した先には、煌々と光を放つひと振りの剣があり、その剣は深々と石に突き刺さっていた。  なぜ剣が石に突き刺さっているのだろうか、という疑問を抱く余裕など少年にはなかった。その時、少年はとにもかくにも剣が必要で、剣が見つかった喜びに舞い上がる。  そして、何の躊躇もなく剣に飛びつくと、その剣を石から引き抜いたのだ。  その後、少年がどうなったのか、マーシャには興味がなかった。マーシャにとって、その少年と自分の関わりはごくごく些細なもので、自分はただ石の前まで走って、剣を指差しただけだった。  だから、すっかり忘れていたわけで、思い出した今となっても、ああ、そうか、と納得するばかりだった。――石に突き刺さった剣を引き抜いて王になったというのは、あの時の少年のことだったのかと。  ところが、青年王の方はマーシャとは異なる想いを抱いていたらしい。謁見の間に入ってきたマーシャを青白い炎を宿した瞳で、じっと睨みつけてくる。  マーシャは突き刺さってくる視線の鋭さを怪訝に思いながら数歩進み出ると、膝と腰を曲げて礼を取った。 「オークの賢者メルディンの四番目の弟子、マーシャ。ログレスの王に精霊のご加護を」  そのまま跪いたマーシャに向かって、すぐさま高らかな声が響く。
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