1.青年王は美形につき、お断り

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 目的あって旅をしているマーシャにとってみれば、殊更、不本意だ。  長い旅をしていれば過去には、我が国の賢者にと誘われたことが幾度かあって、心が動きそうになったこともあったが、マーシャはそれらすべてを断っている。それも、豪勢な食事と贈り物を貰い、暖かな部屋と柔らかなベッドで眠らせて貰った翌日の誘いをだ。 腰を低くした王たちに向かって、マーシャは幾度も首を横に振ってきた。それなのに――っ‼ 「任じるって、どんだけ上からよ! しかも‘禁じる’って何? どうして、あたしが貴方に従わなければならないのよっ‼」 「従えないのであれば、魔女として火炙りに処す」 「はぁ? 魔女ですって⁉ あたしは魔女じゃない‼」 「俺には、魔女とドルイダス(女賢者)の違いなど分からない。どちらも怪しげな術を使う」 「ぜんぜん違うわよっ! どこがどう違うのか、何も知らない人間に教えるのはちょっと時間がかかっちゃうんだけど……」 「だったら、時間をかけて教えてくれればいい。王の相談役というのは、そういう役目も担うものだ」 「嫌よ。どうして、あたしが。お、こ、と、わ、り!」  きっぱりと告げて、マーシャは青年王の顔を睨み付けた。ところが、その顔が彼女を怯ませるほどの美形だったことが、彼女の不幸の始まりだ。  結局、マーシャも他の女性たちとそう大きくは違わない。綺麗で美しいものが好きで、寂しげで未熟なものを放っておけなかった。  一度去りかけて、再び青年王の前に戻ってきたマーシャは、これまでで一番穏やかな声音を響かせて彼に尋ねる。
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