1.青年王は美形につき、お断り

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「ええ、そうよ。二年でそこそこにしてみせるわ」  それなら文句ないでしょ、と言えば、青年王は渋々といった様子で頷いた。マーシャは、ほっと胸を撫で下ろす。 「それじゃあ、あたしの住まいに人をよこしてね。先に帰るわ」 「何? ……待て! 城で暮らせと命じたはずだ!」  慌てたように玉座から立ち上がった彼を見上げてマーシャは人差し指を立てた。 「あたしがひとつ譲ったら、貴方もひとつ譲るべきよ。相談役になるわ。弟子も取るわ。その代わり、相談役は期間限定。弟子がそこそこ知識を得るまで。その弟子の教育は城ではなく森でする。もともと、ドルイドの修行は自然の中でするものなのよ。人の手で積み上げた石や鉄ばかりの城ではできないわ」 「……分かった」  漆黒のマントを大きく翻して、今度こそマーシャは二度と振り返らない決意で玉座に背を向けた。大扉に足を向けると、左右の兵士が反射的に槍を交差させたので、キッと睨み付けてやる。彼らは気まずい表情を浮かべて槍を元の位置に戻した。  森に戻ったマーシャを迎えたのは、一匹の黒猫だ。すーっとどこからともなく現れて、マーシャの足に柔らかな体を擦り寄せてきた。 「もうっ、ビリーったら、いったいどこにいたのよ?」  にゃあ、とまるで普通の猫のような声を出す相棒を抱き上げて、マーシャはその緑がかった金色の瞳を覗き込んだ。  黒猫の両脇に両手を差し入れて持ち上げると、細い両足と長い尻尾がぷらぷらと揺れ動く。ビリーはマーシャに見つめられて、髭をそよがせ、三角に尖った耳をぴくぴくと動かした。
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