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キッチンは部屋の一番奥だ。研究に使っている薬剤瓶もそこに並んでいるので、調味料と誤らないように注意が必要である。
黒猫をキッチンの床に下ろすと、マーシャはマントを脱いで、キッチンの入口に下ろされた梯子にマントを引っ掛けた。梯子は屋根裏に繋がっており、マーシャはそこを寝室として利用していた。
「それで?」
マーシャは腕捲りをする。
「小鳥は捕まえられたの? あたしはお腹ペコペコだわ」
『マーシャが何か食べるのなら、僕も食べるよ』
「食いしん坊」
呆れたように笑ってから、マーシャは貯蔵箱の蓋を持ち上げる。数日前に焼いたライ麦パンを取り出すと、抱えるほど大きなそれから食べる分だけ――ひと切れとひとかけら――をナイフで切り分け、残りは貯蔵箱に戻した。
かまどに火を灯す。底の浅い鉄鍋を火にかけて、薄く切って燻製にした豚肉を鍋の底に並べて敷く。しばらく経つと、肉から染み出てきた油が熱々の鉄鍋の上で、じゅうじゅうと音を奏で始めた。白い煙が鍋を覆い始めたのを見て、マーシャは肉をひっくり返し、その焦げ目のついた肉の上に卵を落とす。
じゅわっ、と激しく油が弾け飛んだ。すかさず、鍋蓋を盾にして、顔めがけて飛んできた油を防ぐ。そして、そのまま蓋を鍋に被せた。
「スープは昨日の残りでいいわよね」
『僕はミルクがいいなぁ』
「おととい貰ったものしかないわよ?」
『傷んでなければいいよ』
ミルク壺から平皿にヤギのミルクを注いで、さきほど切り分けたパンの欠片をミルクの中に落とす。
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