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スープは昨日調理した鍋に入ったままだった。いろんな野菜を煮込み、塩で味を調節しながら作ったスープの上澄みだけを掬って、取手の付いたコップに注ぐ。
ミルクとスープをテーブルに運んでから、かまどに戻り、鍋蓋を取った。ほんの少し固まり切れていない目玉焼きとよく焼けた豚肉の芳ばしい香りがマーシャの鼻をくすぐる。ビリーも食欲を刺激されて堪らないのか、マーシャの足元をぐるぐると歩き回って、にゃあにゃあ鳴いている。
白い湯気の立った目玉焼きをパンの上に移して、マーシャはテーブルに移動した。
「頂きます」
マーシャが椅子に腰掛けると、すぐにビリーも追ってきてテーブルの上に飛び乗り、平皿に顔を突っ込んだ。ぴちゃぴちゃと舌でミルクを掬って飲んでいる。
マーシャもパンにかぶり付いた。作り置きのライ麦パンは、とても歯ごたえがある。 肉汁が染み込んだ部分はいくらか柔らかくなっていて食べやすいが、表面は硬いので、スープの中に入れてふやかしておく。
大きく口を開いて、目玉焼きを頬張った。黄身が壊れて、とろりと鮮やかな黄色が流れる。それをあわてて吸うと、マーシャはさらにパンを頬張った。
ぺろりと先に食事を平らげたビリーがマーシャの袖に爪を引っ掛けてくる。マーシャは豚肉を小さくちぎってビリーの鼻先に置いた。
「ねだっても、もうあげない。もしブタになったら猫に戻るまで水桶の中を泳がせるから」
人差し指を立てて厳しい口調で脅せば、いったんビリーの口の中に入った肉片が、ぽろりと出てきてテーブルの上に転がった。
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