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スープを飲み干して食事を終えたマーシャは、窓辺の揺り椅子に本を持って座る。すぐにビリーがマーシャの膝の上に飛び乗ってきて体を丸めた。その柔らかで暖かい毛並みをひと撫でしてから、本のページをめくる。
おーい、と声が聞こえたのは、その時だった。マーシャは眉を潜めて窓の外に視線を向ける。
こんな森の奥に人がやって来るはずがない。聞き違えたことにしようと思ったが、今朝のこともある。また、この国の酔狂な王がマーシャにちょっかいを出してきたのかも知れなかった。
「もうっ、何なの!?」
窓の下を見れば、確かに人がいる。質の良さそうな藍色のマントを羽織っている。その藍色に伸びて広がる襟足の長い髪は、月明かりのようなプラチナブロンド。薄い唇を引き結び、真っ青な瞳でこちらを見上げてくる。
マーシャは膝からビリーを下ろすと、揺り椅子から立ち上がった。
(嘘でしょ……)
とても信じられない。いや、信じたくない。いったいどうして、と込み上げて来る戸惑いを堪えられそうにもなかった。
戸口を開いて、マーシャは家の中から飛び出した。
「あたしは人を寄越してと言ったはずよ!」
身を乗り出すように木の下を覗き込みながら声を荒げる。
「なのに、どうして王が自ら来てしまうのよ!」
「この国で俺が一番賢い」
「んなわけあるかっ!」
「何のためにお前を足止めしていると思っているんだ」
「何のためよ?」
「……一緒にいたいんだ」
「はあ? 聞こえない!」
マーシャは眉間にしわをつくって耳に片手をそえる。
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