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ログレスの青年王は苛立って地団駄を踏み、マーシャを仰ぎ見ながら声を張り上げた。それは半ば自棄になっているように見えた。
「国なんてどうでもいい。賢者なんか知らん。俺はただ、王でいればいつか、あの時に出会った少女にまた会えると思ったから王で居続けていただけだ。そして、彼女がドルイダスだと知ったから、賢者を求めただけだ」
マーシャは言葉を失った。
「側に置けると思ったから相談役に命じたんだ。それなのに、…こんなの……意味がない…」
ああ、まただ。この青年王は寂しいと訴える表情がなんて上手なのだろう。寂しい、悲しいと、言葉にされなくとも伝わってくる。
きっと彼はこうしてこれからも人の情を上手に操って結局は自分の思い通りに事を進めていくのだろう。相手に、仕方がないなぁ、と思わせ従わせる彼の性質は、一種の王たる素質なのかもしれなかった。
マーシャは深くため息をつく。
「あたしはどうすればいいわけ?」
「城に来てくれ」
「無理」
「なら、俺がここに」
「あたしの弟子になるというの? 正気? 城はどうするの? 王としての執務は? 内乱が起こるか、起こらないかの国の危機なんでしょ?」
「国に何か起これば、使いが来るか、のろしが上がる。ここから城まで大した距離じゃない。それに、俺はカンタベリー司教の名のもとに即位した。つまり、ローマ帝国の後ろ盾を持っている。よほどの名分がなければ内乱は起せないはずだ」
「だから、三年も玉座に座り続けることができていたってわけね」
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