2.賢者修行は王が弟子で、前途多難 

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「いったいいつ、私はあいつを殺せるの?」  群青色の美しい蝶との出会いから早くも数年が経っている。てっきり劇的な何かが直ちに起こるものだと思っていたのだが、彼女は相変わらず修道院で暮らしていて、不変的な日々を過ごしている。  なぜなら悪魔の答えが常に同じだからだ。 『まだその時ではない』  彼女はひどく落胆した。 「あいつを殺せるのは、いったいいつなの?」  黄金色に輝く己の髪を櫛で丁寧に梳きながら、壁に埋め込まれた大きな鏡に向かって問いかけると、鏡に映り込んだ大きな蝶の顔がいつも通りの言葉を繰り返した。 『今ではない』  まだだ。まだだ。時ではない。――こうなると、もはや時など来ないのではないかと疑ってしまう。  それではいったい悪魔と関わったことに何の意味があるのだろう。関わってしまった自分はもはや天国には行けないというのに!  蝶と出会ってから、彼女は神に祈ることをやめた。  祈る無意味さを知り、代わりに書物を読んで様々なことを学ぶ楽しさを知った。  蝶に頼めば、修道院では手に入らない魔術についての書物も読むことができたので、独学ではあったが、簡単な術も使え、材料さえ手に入れば毒薬を作ることもできるようになった。  これでいつでも、どんな方法でも殺せる。準備が整ったというのにいつまで待たなければならないのだろう。  もし蝶の言う通り、その時が来たとしても、随分と待たされた自分は老婆になっているのではないだろうか。
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