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彼女が身に着けている衣は少女の頃からずっと変わらず質素な修道服だったが、その灰色の衣では隠し切れないほど彼女の美貌は眩く光り輝き始めていた。
そしてその美貌は、ごく稀に修道院を訪れる旅人の目に焼き付き、魅了し、けして忘れることのできない乙女として人から人へと噂された。
程なくして噂話はオークニーのロット王とその王妃の耳にまで届いた。
◇◇ ◇◇
テーブルをはさんで向かい合い座ると、何やら居心地が悪くて仕方がない。
居たたまれなくて、すぐにでも席を立ちたい気分だ。ここは自分の家で、目の前の相手は自分の弟子になるというのに、なんでこうも落ち着かないのだろうか。
「ええっとねぇ……」
マーシャは視線を彷徨わせ、言いよどみながら黒猫の姿を探す。
ビリーは窓際の揺り椅子の上で、ふわふわした毛糸玉みたいに丸くなっていた。大きな窓から差し込んでくる柔らかな光が彼を優しく包み込んでいて――腹が立つくらいに――ぽかぽかと気持ちが良さそうだ。
(もうっ。役に立たないんだから!)
もとより役に立たない相棒だということは承知している。だけど、せめてビリーが普通の猫みたいに、にゃあとか言いながらテーブルの上に乗って来て、空気をまったく読まない構って攻撃を繰り出してくれたなら、この妙な空気も吹き飛ぶというものだ。
そもそもアーサーがいけない!
彼があんなことを言うから調子が狂ってしまう。
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