2.賢者修行は王が弟子で、前途多難 

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「いろいろと仕舞い込めて便利なのよ。あたしがドルイダス(女賢者)になって一番良かったと思うところよ」  マーシャは黒い本をテーブルの上に置くと、そのテーブルの上を滑らせるようにして本をアーサーの前に差し出す。 「そんなことよりも表紙を見て、紋章が描かれているでしょ」 「紋章? ……これは何かの植物か?」 「そう、ヤドリギを摸した紋章なの。あたしたちは自分の系譜を表した紋章を持っていて、それを見れば、その人が誰の弟子で、どんなドルイドの流れをくんだドルイドなのかが一目瞭然なのよ。人間だって自分の一族の系譜を大切にするでしょ? 家族を持たないドルイドにとって師弟関係は血のつながりよりも濃く、それをとても大切にしているの」 「へえ、そうなのか。それで、このヤドリギの紋章を持つドルイドは、どんな系譜なんだ?」 「パナケアという名前の女神の系譜よ」 「女神?」 「そう。あたしたちの始祖は女神なの。だから、魔女と呼ばれたキルケやヘカテ、グルヴェイグとはそもそも違うんだってことをまず知っておいて欲しいわ。――右手を紋章の上に重ねて」 「右手? ……こうか?」  アーサーはマーシャの言葉に従って金に縁取られた鮮やかな緑色のインクで描かれたヤドリギを摸したという紋章の上に右手をそっと重ねた。  目で小さく頷いて、マーシャはアーサーの手に自分の手を重ねる。 「生と死と万物に誓って。すべてに宿る大小の精霊よ、我らの願いを受け入れ、望みを叶えたまえ。我、この者を子とし、導き、育み、見守ることを誓う。――次、繰り返して」
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