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「うん、そう。どんどんごちゃごちゃになっていくわよ。でもね、紋章が変化して、絵柄が減ることもあるの。とは言っても、本当にめったにないことなんだけど、自分の師匠の力を超えると、師匠の弟子だということを表す模様が消えるの。つまり、あたしたちのアザミの花はあたしの師匠から受け継いだものだけど、あたしがあたしの師匠を超えれば、あたしの手のひらの紋章からアザミの花の絵柄が消えるってこと。その代わりにクレマチスの花が現れるはず。そして、師匠の師匠を超えれば、さらに紋章はすっきりして、始祖であるパナケアまで越えられたらヤドリギまで消えて本当にすっきり。クレマチスの花だけの紋章になるわ。そして、その時、あたしを祖とする系譜が始まるのよ」
「自分を祖とする系譜が始まったら嬉しいだろうか?」
「どうかしら?」
マーシャは小首を傾げる。アーサーに問われる今の今まで考えたことがなかった。
ふと自分の手のひらに視線を落としながら、考え考え素直な今の気持ちを伝える。
「嬉しいと思うドルイドもいるだろうけど、あたしは師匠のアザミの花を気に入っているし、パナケアのヤドリギも好きよ。師匠と巡り合えて幸運だと思っているし、紋章にヤドリギが描かれていることで、魔女ではなくパナケアという名の女神の系譜だと証明して貰えるもの。だから、自分の紋章から消えて欲しいなんて思ったことはないわ。あたしはクレマチスだけの紋章よりも今のごちゃごちゃしている紋章の方がずっと好き」
ごちゃごちゃで複雑な紋章は、先人たちの生きた証だ。
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